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2020.10.15

対トルコで仏露連携はNATO終焉の前兆か
アゼルバイジャンとアルメニアの紛争

2020/10/15    的場 博子

 

今年9月27日に始まったアゼルバイジャンとアルメニアの地域紛争は最悪の場合、第三次世界大戦の火種になるのではないかと懸念されている。遠い地域であるが、日本はアゼルバイジャンに世界で 最も経済協力をしてきた国(2012年から2017年外務省調べ)で、一方アルメニア支援では世界第5位の支援をしてきた経緯があり、この問題に無関係ではない。

 

紛争を繰り返しているこの土地は、アゼルバイジャンの自治州ナゴルナ=カラバフで、アルメニア人が多く住んでいる。地政学的にみると、この地域の周囲は、ロシアやトルコ、イランがあり、 常にその影響下にある。

 

南に位置するトルコはアゼルバイジャンの友好国であり、イスラム教徒が多く住む国である。トルコのエルドアン大統領はアゼルバイジャンに自由シリア軍を送ったと報じられた。一方アルメニアはキリス ト教徒が多く北に位置する旧ソ連邦の国家でロシア寄り。このたびの紛争でロシアはフランスと連携して、紛争の収束を図ろうとしている。

 

この地域紛争はイスラム教とキリスト教との長年にわたる確執と複雑さがある。自由シリア軍はシリア国内の反政府組織で<キリスト教ユダヤ教を排除する自由>を求めるスンナ派系の過激派。トルコがシリアの公序良俗を犯す過激派を利用する理由は、トルコがイスラム教スーフィーでスンナ派に近いため、スンナ派の過激派を利用しやすいことに加え、オスマン帝国再興の夢を持ちシリアを抱き込みたいと画策しているからだ。

 

一方アルメニアを支援するロシアは旧ソ連邦時代に宗教を弾圧していた。ソ連邦の崩壊後、新政権は前政権の圧政を批判し、相対的にロシア正教会の立場が急速に強まった。国民にとってロシア正教会は精神的支柱となり、プーチン大統領の政策にも大きな影響を与えるようになってきている。

 

10月5日、インドのインターネットメディアTFIpostは「フランスはアルメニアを支援するためにやってくる。それは、フランスとロシアは共にトルコに相対することを意味する。ロシアのアルメニアに対する支援表明後、フランスはアルメニアとその国民に支援を表明することで、アルメニアに関与し始めている。ロシア、フランス両国が、アルメニアの支援に回ると、トルコはさらに追い詰められ、孤立していく」と報じた。

 

さらにTFIpostは「NATO加盟国は、トルコが彼らに信じてほしいと願っていることとは反対の見方をしている。フランスの大統領は、問題の包括的かつ論理的な解決策に到達できるように、 プーチン大統領とトランプ大統領、双方と話し合うと述べた」とフランス側の働きかけに注目した。

 

そしてトルコとフランスについて「2つの加盟国が異なる陣営に立っているため、NATOの関連性は異なる進展を遂げている。ソ連の崩壊以後、NATOの主な目的は終わり、ワルシャワ協定がなかったため、NATOの関連性はなく、ロシアは同組織を機能させ続けるための新たな仮想敵国になっていたと、長い間考えられていた。フランスがプーチン大統領と話し合い、NATO加盟国であるトルコに対してどのような行動を取る必要があるかについて話し合うという事実は、間違いなく北大西洋条約機構(NATO)にとって終焉の前兆である」と危惧する。

 

しかし、このインドメディアの視点は、近年ロシア寄りのインドの偏った見方ではないだろうか。フランスはアメリカとも連携している。この動きをみれば、NATOの終焉の前兆とは言いすぎである。

 

欧州がこの地域に介入する理由の1つが、エネルギー問題がある。 アゼルバイジャンを経由する天然ガスパイプラインは、ロシアからトルコを中継してEUに向かう。EUで消費する天然ガスの4割はこのルートで運ばれている。もしこの地域紛争がパイプラインに悪影響を及ぼせば、供給が減り、欧州のエネルギーが不足してしまう。

 

このため、地域紛争を収めるために各国は連携している。地理的に遠い日本だが傍観はしていられない。冒頭で説明したように、紛争当事者の両国に多くの開発援助をしている。かつてアゼルバイジャンは上下水道が未整備で改善のために日本政府主導で事業が複数行われた。彼らの発展の足枷になる紛争は早急に終わらせなければ、多くの命と建設されたインフラが破壊されてしまう。

 

今や地域の紛争の影響は、すぐ世界各国へと波及してしまう。この地域から難民が発生すれば、一部はトルコへと向かうだろう。トルコはすでに多くの難民を国内に抱えている。EUはトルコに滞留する難民をEUに送りださないために、難民施設に60億€(約7000億円)の運営予算のうち、約27億€を支払っている。

 

かつて地域の紛争が大国の代理戦争と化し、周囲の国は見守るしかなかった時代があった。しかし他の国々も連携し関与しなければ、大国だけでは紛争は治らないのだ。日本政府も支援実績で 培った良好関係を外交の武器にして、アメリカやEUと連携し、友好国のトルコへ呼びかけるなど、紛争の早期収束への働きかけを望みたい。

 

☆本記事は参政党ボードメンバー篠原常一郎さんのご厚意でメルマガに掲載していただきました。 また、追加取材で、関係国の宗教について加筆致しました。

 

出典)

https://tfipost.com/2020/10/turkey-fry-france-comes-in-support-of-armenia-thats-france-and-russia-together-against-turkey/

 

資料)

外務省アゼルバイジャンへの経済協力実績

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000497951.pdf#page=92

 

EUのトルコへの難民支援

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_19_6694

 

トルコのエネルギー事情

https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_14-07-04-02.html

画像) https://ja.wikipedia.org/wiki/アゼルバイジャン#/media/ファイル:Location_Artsakh_en.png Turkey Fry: France comes in support of Armenia. Thatʼs France and Russia together against Turkey https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Location_Artsakh_en.png

 

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