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2021.04.20

東アジアに集結する多国籍チームの目的は?(前編)

2021/04/20 台湾軍事ニュースネット

新聞テレビなど一般メディアでは、イギリスが空母を東アジアに派遣してくるとか、ドイツが軍艦を送ってくるとか、断片的に報道されているのだが、南シナ海を取り巻く現状の情勢を見ると、実際はかなり広範囲な中国包囲網が構築されているように思える。その状況や包囲網が結成された理由とその目的などを二回に渡って述べていきたい。

南シナ海航行の自由作戦の現状、過去半年間の動き

日米同盟の働き:

長年の日米安保条約のもと、自衛隊と米軍は緊密な連携を保っている。そのレベルの深さ活動の幅広さを分かってもらうには、この半年間で、どのような演習が行われたかを列挙すればよいのだが、あまりにも多岐にわたるので、代表的なものをあげてみる。

まず、海上自衛隊関連であれば、年次のキーンソード演習が代表例であろう。昨年は、日米に加えてカナダも参加し、10月26日から11月5日まで、日本本土と離島や周辺海域の軍事施設で実施された。これは多くの艦船・航空機・兵員が参加するもので、参考資料の映像でその様子を見て欲しい。(参考資料;1)

次に航空自衛隊関係で特筆すべきものは、今年の4月1日に行われた、日米ステルス戦闘機による東シナ海編隊飛行であろう。これは、航空自衛隊三沢基地のステルス戦闘機F-35が、ハワイから岩国基地に派遣された世界最強と言われる米国空軍F-22 戦闘機と共同訓練をしたことだ。空中給油機を交えた編隊なので、日本の基地から短時間で、東シナ海に人民解放軍が対抗できない戦闘機群を送り、制空権を把握できるというデモンストレーションであろう。中国ではJ-20という第5世代ステルス戦闘機が完成し、すでに実戦配置についたと言われているが、実際は航空ショーでのデモ飛行以外に演習などに姿を見せたことがない。人民解放軍の現行の第4世代J-16戦闘機やJ-10戦闘機では日米の最新鋭戦闘機にはまったく対抗できない。この日米の第5世代ステルス戦闘機の編隊飛行は、「J-20のつり出し」、もしくは「J-20がないなら、武力侵攻はあきらめろ。我々の標的になるだけだぞ」というメッセージだと思う。(参考資料:2)

意外なことに、なんと陸上自衛隊も海外で米軍と演習をしている。陸上自衛隊のCH-47チヌークヘリコプターが、フィリピン海での統合フライトオペレーションで、第7艦隊所属の強襲揚陸艦アメリカ(LHA6)に着艦していた。CH-47は大型の輸送ヘリコプターなので、米軍の島嶼揚陸作戦の支援目的の訓練だと思う。(参考資料:3)

このほかにも、伊勢湾での日米合同の機雷の掃海訓練や、東富士演習場での火力訓練など、南シナ海でおこりえるシナリオを想定し、綿密に連携を保って共同訓練を行っている。

日米豪印のクアッド4か国戦略対話の動き:

日本のマスコミの報道を見ていると、日米豪はともかく、インドが及び腰なのでクアッドは機能しないという論評が大勢を占めていた。その観測をくずしたのが、クアッド4か国の外相会談と首脳会談だ。2月18日に開催された外相の電話会談では、茂木外相が「基本的な価値観を共有し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の強化に深くコミットするという4カ国の役割が一層重要になっているとの認識を強調」し、ブリンケン米国務長官、ペイン豪外相、ジャイシャンカル印外相が同意した。(参考資料:4)

また3月12日に開催された首脳会議には、インドのモディ首相、アメリカのバイデン大統領、オーストラリアのモリソン首相と日本の菅首相が参加し、インド太平洋の重要性とコロナワクチンに対する具体的な協力態勢に焦点を当て会談を行なった。(参考資料:5)

なぜインドが態度を変えたかということは、クアッドが中国に対抗する為に非常に有効な手段だと認識したからだと思う。詳しくは今準備している「なぜ人民解放軍はヒマラヤ国境から撤退したか」で詳しく論じたい。

具体的なクアッド4ヶ国の軍事演習も日本のメディアを見ているだけでは全く分からないが、数多く開かれている。まずはインド主催の、ベンガル湾で長年にわたって開催されているマラバール演習がその代表例だ。昨年は、11月3日から開催され、米軍がミサイル駆逐艦ジョンS.マケイン(DDG-56)を派遣し、インドが補給船シャクティ(A57)、駆逐艦ランビジェイ(D55)、フリゲート艦シャワリ(F47)、潜水艇シンドゥラジ(S57)、および多くの戦闘機を派遣した。オーストラリアはフリゲート艦HMASバララット(FFG 155)を送り、日本の海上自衛隊は護衛艦「おおなみ」(DD-111)を派遣した。(参考資料:6)

前述したように、クアッドの中で同盟関係がない米印関係が危ぶまれていたが、米印間でBECAと呼ばれる基本的軍事情交換協力協定に署名しており、GPSの軍事信号を含む色々な情報を交換し始めている。またインド軍はミグに変わるアメリカの艦載機の購入も検討している。二国間演習では、先月インド海軍は、米空母セオドア・ルーズベルト空母打撃群との演習も行った。現状を見る限り、クアッドは強力に機能していると言える。(参考資料:7,8,9)

 

欧州NATO軍やファイブアイズの動き:

欧州の動きで最初にあげられるのは、英国空母クイーン・エリザベスの東アジア派遣だろう。昨年からうわさされていたが、年頭に正式に発表された。しかも、艦載機として、米国海兵隊のF-35B短距離離陸・垂直着陸が可能な第5世代ステルス戦闘機が搭載されてくる。この組み合わせは昨年のNATOの演習で実証済みなので、戦力としては大きい。また、英国としての参加ではなくNATO軍として派遣されるので、空母打撃軍の一員としてオランダのフリゲート艦がやってくると思う。時期としては、5月頃と観測されていたが、西側国際政治の動きと関連して、もう少し遅れるかもしれない。(参考資料:10)
イギリス海軍がまだ姿を見せないのに対して、昨年末から原子力潜水艦やフリゲート艦に強襲揚陸艦まで派遣し、すでに日米豪印や他の国と積極的に演習を繰り返しているのは、フランスだ。例えば、今年の2月19日に西太平洋で、日米とともに海上演習を行っている。この仏軍艦は演習終了後に佐世保で補修を受けた後、南シナ海に進入し各国と演習を行う予定だ。(参考資料:11)

また、5月には日本で日米仏での陸上合同訓練を行うことを、陸上自衛隊の幹部が発表している。このようなことは、自衛隊の歴史上なかったことで、フランスの積極性がうかがえる。(参考資料:12)
フランスの積極性に比べて、腰が引けているというか、もともと海外植民地をほとんどもたなかったドイツは消極的に見え、8月にフリゲート艦を派遣してくるだけだ。しかも予定訪問先に韓国を入れているので、その真意が図りづらい。ソ連の脅威に対してNATOとしてまとまったドイツだが、東アジアの情勢に関しては、英米仏やファイブアイズ諸国とは違った立ち位置にいるように思える。(参考資料:13)
ファイブアイズの一員のカナダは目立たないが、着実に米国と連携した活動をしており、昨年も台湾海峡をフリゲート艦で通過したり、日米のキーンソード演習に参加したりと小なりとはいえ存在感を示している。現状では、やはりフリゲート艦を南シナ海に派遣してきており、4月前半には、ベトナムに寄港していた。(参考資料:14)
クアッドの一員でもあり、ファイブアイズのメンバーでもあるオーストラリアだが、この国はより深く尖閣諸島の防衛に関わっている。オーストラリア本国から、約一か月交代で要員と偵察機を、沖縄の嘉手納基地(米軍・国連軍基地)に派遣し、偶数日に尖閣諸島の周辺を哨戒飛行している。これは、日米だけでなく多国籍で、中国の力による現状変更を許さないという強い圧力になっていると思う。(参考資料:15)

 

ASEAN諸国の動き:

ASEAN10か国は一枚板ではなく親中の国もあれば親日・親米の国もある。また国の中でも、経済は華僑に握られ親中の色が濃くても、軍部は第二次世界大戦の独立戦争に対する日本の貢献から親日の国もある。アメリカは嫌いだが、日本なら良いと思っている国もあるし、逆もある。よって、国ごとにレッテルを貼るのではなく、丁寧に行動を観察しなければ判断を見誤ると思う。

フィリピンが今回の南シナ海の紛争の主役の一人だ。1995年に駐留米軍をフィリピン国内から追い出した後、軍事力の空白を生み、自国のEEZ内の島礁を中国に不法占拠され、慌てて米軍を呼び戻したが、もとには戻っていない。紛争地帯の領有権に関して、国際司法裁判所で勝利したが、中国はそれを「紙切れ」と評して撤退しない。そのフィリピンの外務大臣が、日本が及び腰だった中国の海警法変更に真っ先に抗議の声をあげた。主な抗議のポイントは、中国の新海警法が外国公船に対して武器使用を認めたことに対するものだ。同様の抗議は、西沙諸島を不法占拠されているベトナムも表明している。(参考資料:16)

日米は、フィリピン軍の能力構築支援を行っていて、フィリピン軍が自力で西フィリピン海を哨戒できるように機材や要員の訓練を行っている。その一例として、米軍は1.28億ドルにおよぶC-130 輸送機や軍事物資を寄贈している。日本政府も哨戒用の航空機を供与したり、自衛隊員を派遣しての訓練を行っていたりしている。(資料:17)
その成果として、フィリピン軍が自力で、西フィリピン海にいる海上民兵の船を目視することができている。また軍の哨戒機にマスコミを乗せて取材させたので、フィリピンのみならず、マレーシアなどで、その映像が放送され話題となっている。(資料:18)
ASEANの動きで意外だったのが、マレーシアとシンガポールが、米軍と共同演習を行ったことだ。米中間のバランスをとることに苦心している両国がここまで米国側に踏み込むとは思わなかった。逆にもう少し米国側につくのではと予測していたタイが全く行動を起こしていない。(資料:19、20)

インドネシアは、先日東京で日本と防衛装備品輸出協定に署名しているので、政権は悪くて中立、軍は日本に好意的ではないかと観測している。ブルネイ空軍も米軍と能力構築の対話を行っているので、悪くて中立だと考えている。カンボジア、ラオスはチャイナマネーにやられているので、中国サイドに立つと思うが、ASEAN内でも存在感の薄い国だ。ミャンマーは混乱しているので、その結果どちらに転ぶかを予測するのは難しい。(資料:21)

後編に向けて

この前編では、日米、クアッド各国、欧州NATO軍+ファイブアイズ、ASEAN各国の動きを紹介してきた。日本のメディアでは、ほとんど紹介されることのないものなので、新たな視点を得た人がいれば幸いだ。後編では、なぜこのようなことが起きているかを述べてみたい。

参考資料
参考資料1:映像(英語):US Warship joins Japan & Canada to enhance combat readiness in South China Sea, US Defense News, November 04, 2020、
https://youtu.be/4YsCAmuE0SQ

参考資料2(日本語):日米ステルス機が共同訓練 空自F35、4機参加、時事通信、2021/04/02、
https://www.jiji.com/sp/article?k=2021040201129&g=soc

参考資料3(英語):米国海軍太平洋艦隊Facebook、2021/02/09、
https://www.facebook.com/USPacificFleet/posts/10158930432447970

参考資料4(日本語):日米豪印外相が中国けん制、ミャンマー民主早期回復でも一致、ロイター、2021/02/18、
https://jp.reuters.com/article/usa-blinken-quad-myanmar-idJPKBN2AI2LI

参考資料5(英語):First Quad leaders’ meet today – focus on Indo-Pacific, COVID vaccines、DNA、2021/03/12、
https://www.dnaindia.com/world/report-first-quad-leaders-meet-today-focus-on-indo-pacific-covid-vaccines-2880595

参考資料6(中国語・台湾):軍情動態》圍堵中國!美日印澳「馬拉巴爾軍演」孟加拉灣登場、自由時報、 2020/11/03、
https://news.ltn.com.tw/news/world/breakingnews/3340674

参考資料7(中国語・台湾):共軍急跳腳!美印合作共享情報 未來對中國飛彈打更準、三立新聞網、2020/10/04、
https://www.setn.com/News.aspx?NewsID=827842

参考資料8(中国語・台湾)波音爭取印度艦載戰機訂單 測試F/A-18E滑跳起飛、中時新聞網、2020/12/16、
https://www.chinatimes.com/realtimenews/20201216004747-260417?ctrack=pc_armament_headl_p01&chdtv

参考資料9(英語)Theodore Roosevelt Carrier Strike Group Conducts Joint Force Maritime Exercise with India, US 7th Fleet, 2021/03/29、
https://www.facebook.com/7thfleet/posts/10159233896012402

参考資料10(日本語)米英、空母打撃群で協力 極東派遣で中国けん制か、時事通信、2021/01/20、
https://www.jiji.com/sp/article?k=2021012000189&g=int

参考資料11(英語):引用元(英語):米国海軍太平洋艦隊Facebook、2021/02/20、
https://www.facebook.com/USPacificFleet/posts/10158958542652970

参考資料12(中国語・台湾):軍情動態》 日美法部隊首次日本國內聯演 日方規劃最快5月後舉辦、自由時報、2021/03/05、
https://news.ltn.com.tw/news/world/breakingnews/3457398

参考資料13(中国語・台湾):19年來首次!德國官員:8月將派護衛艦行經南海、自由時報、2021/03/03、
https://news.ltn.com.tw/news/world/breakingnews/3454345

参考資料14(英語):Duang Dang TW, 2021/03/31、
https://twitter.com/CanEmbVietnam/status/1377074632021393413

参考資料15(日本語):やんずJapan TW, 2021/03/14、
https://twitter.com/yanzu27/status/1370932315505881091

参考資料16(英語):PH protests China law allowing its coast guard to fire on foreign vessels、CNNフィリピン、2021/01/27、
https://cnnphilippines.com/news/2021/1/27/Philippines-diplomatic-protest-China-Coast-Guard-Law.html?_=1611742382046

参考資料17(英語):U.S. Donates Philippines $128M Worth Sniper Gear, Anti-IED equipment, C-130 Aircraft、Defense World、2020/12/08、
https://www.defenseworld.net/news/28491/U_S__Donates_Philippines__128M_Worth_Sniper_Gear__Anti_IED_equipment__C_130_Aircraft#.X894x9gzZPY

参考資料18(英語・映像):More Chinese ships spotted in West PH Sea、ANC 24/7、2021/04/01、
https://youtu.be/Si63_2Zc9og

参考資料19(英語):米国海軍太平洋艦隊Facebook、2021/04/08、
https://www.facebook.com/USPacificFleet/posts/10159067233132970

参考資料20(英語):米国海軍太平洋艦隊Facebook、2020/12/15、
https://www.facebook.com/USPacificFleet/posts/10158777925912970

参考資料21(日本語):インドネシアとの防衛装備品輸出協定署名、岸信夫防衛相TW、2021/03/30、
https://twitter.com/KishiNobuo/status/1376885786235129859

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