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2024.01.30

令和六年一月二日に東京国際空港で発生した航空機事故に関する質問主意書

 令和6年1月26日付で下記の通り質問主意書を提出しました。
政府からの答弁があった際には、こちらに掲載いたします。
 
『令和六年一月二日に東京国際空港で発生した航空機事故に関する質問主意書』
 

 令和六年一月二日に東京国際空港で発生した、日本航空A350型機と海上保安庁DHC8型機の衝突事故において、五名の海上保安庁職員の方々が尊い命を落とされた。
 事故直後から、新聞やテレビ等を通じて、事故原因や当時の状況について断片的な情報が「関係者」という無責任な情報源に基づいて報道される状況が続いている。加えて、その情報をもとにSNS等で関係者を犯人扱いするような発言が繰り返され拡散されている。
 このような世論誘導が航空事故の真相解明と再発防止の妨げとなり、再び今回のような惨事を招きかねない事態となっている。
 

 これら断片的な情報による誤った世論誘導の原因は、日本において、航空事故やインシデント等で死傷者が出た場合、刑事告発される可能性がある国だということ、同時に事故調査資料が刑事裁判の証拠として利用される国であるという状況に起因している。
 そのため、調査の対象となる者は、自身への刑事責任を免れるため又は軽減するために、事故について知り得る事実の全てを明らかにせず、別のストーリーを立てて聴取に対応したいという心理が働くことが考えられる。刑事上の取り調べには黙秘権は認められるが、事故調査に黙秘権を行使することが前提になるなら事故の再発防止に資する情報を収集し教訓とするという目的を果たす妨げとなる。
 すなわち関係者個人の責任を問い、罰することが目的の刑事捜査が優先されたり、そうした方向に沿って事実の断片だけを取り上げるような言説や報道がなされたりするなら、本来、再発防止のみに役立てるべき事故調査が歪められることになる。これは結果として、今後の再発防止につながらない調査としてしまうリスクを生む。
 
 航空機事故の場合は複数の原因が複雑に絡み合って発生することから、「誰か」ではなく「何が」「どのように」原因につながり事故を生み出したかを解き明かすことが新たな悲劇(事故)を引き起こさないためにとても大切である。
 ついては、我が国においては、国際民間航空条約(以下「シカゴ条約」という。)に準拠しながら、その規定と全く相反する「刑事捜査が事故調査に優先する」仕組みを時代に合わせて変えなければならない状況である認識が必要である。
 
 これらを踏まえ質問する。
 
 今回の東京国際空港で発生した事故の原因調査においては、運輸安全委員会の調査を刑事捜査に優先させるシカゴ条約第十三附属書の立場で実施しているのか。報道によれば、既に事故当日から警視庁は海保機長ほか関係者の聴取や滑走路その他の施設に立ち入って捜査を開始し、捜査本部を羽田空港署内に置いたとされるが、これは刑事捜査優先の実態を示しているのではないか。
 
 報道や週刊誌等においては、「警視庁関係者に対する取材による」として、海保機長や、管制官の人為的ミスが要因として、業務上過失致死容疑を視野に捜査をしているといった記事を掲載している。これら事故原因究明に先んじて捜査を行っている捜査官は、具体的にどのような原因特定に必要な専門知識と経験を有しているのか。また、テレビや週刊誌報道で「警視庁関係者」「捜査関係者」から取材、聴き取りをした話として、「海保機の錯誤」とか「管制のミス」などといった話が出ているが、これは運輸安全委員会による調査に先んじて刑事責任の所在を印象づけるような世論誘導につながり、望ましくないと考えるが、政府はこれを問題ないとするのか。
 
 平成九年六月八日に発生した日本航空MD11機乱降下事故において、事故調査が優先され、業務上過失致死傷で起訴された機長が、その後平成十九年に無罪判決となった事例も、刑事捜査が優先されていなければ、避けられた事案であった。この経験を受けて事故調査プロセスにおいては、どのような再発防止策がとられることとなっていたのか。あるいは、そのような対策については検討も策定もされていなかったのか、明らかにされたい。
 
 本来、事故調査においては、組織としての独立性が重要であり、それがあるべき基本であるが、現在日本では、運輸安全委員会が国土交通省の下部組織として位置づけられており、その独立性に疑問がある。たとえば、報道で警視庁捜査が問題にしているかのように伝えられている空港における管制業務は、多くの場合、国土交通省航空局が所管し実施している。調査検証機関が同省傘下では、十分な調査権限の下で公正・中立な立場での調査を実施していく妨げになるのではないか。また、シカゴ条約第十三附属書でも事故調査は独立機関が公正・中立な立場で行うことが望ましいとされているが、我が国の運輸安全委員会はこの国際民間航空のあり方を規定した条約の趣旨に沿うものになっているのか。
 
 右質問する。

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