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2024.01.20

AIのもたらす明と闇

AIのもたらす明と闇

2024/1/18 山下 政治

 

AI(人工知能)に関して筆者は昨年10月に「AIと非認知能力」と題した記事を出した。AIが今後社会に与える影響についてAmerican Enterprise Instituteが発表したレポートをもとに、「より人間的なアナログな仕事がAIの時代には重要視される。」という記事だ。
AIに関しては様々な米国のシンクタンクがレポートを発表している。とくに生成型AIだ。Foreign Affairsの「来るべきAI経済革命」と題したレポートでは経済的効果を次のように語っている。
「生成型AIの経済的可能性に関する調査では、この技術が世界経済に年間4兆ドル(540兆円)以上をもたらす可能性があると推定された。これは非生成型AIやその他のオートメーションが貢献できる11兆ドルに上乗せされることになる。莫大な数字である。比較すると、世界第4位の規模を誇るドイツ経済全体の価値は約4兆ドルである。」(i)マッキンゼー・グローバル・インスティテュートが行った調査によると「この驚くべきインパクトは、主に生産性の向上からもたらされる。」(i)と指摘していることだ。
 
AIがどのように生産性の向上に寄与するのだろうか?
医者・弁護士・会計士は米国では国民が生活する上で最重要な職種と言われている。1977年に渡米したときに「医者・弁護士・会計士とは仲良くしておけよ。」とよく言われたものだ。しかしこの分野では今後AIの発展により不要とは言わないまでも重要な職種ではなくなるのではないか、ということは理解できるのだが生産性の向上に寄与するとはどういうことなのか、考えてみた。
 
筆者は半導体産業の仕事に従事していて、その一つに半導体製造装置メーカーをサポートする仕事がある。装置の搬入据付作業から保守メンテナンス作業のサポートをしている。装置に問題が発生すると夜中でもクリーンルーム(半導体工場のことを業界ではクリーンルームと言う)へ直行し保守を行うのである。このような仕事をしていてAIが応用できないものだろうか、と考えた。問題の多くの原因は複雑な装置を取り扱う作業員に起因していることが多い。装置はPLC(Programable Logic Controller=プログラム可能な演算処理機)によって制御されている。あらかじめ取扱説明書に記載されている内容で作業が行われその通りに装置がPLCにより仕事をするのである。しかし予期せぬ作業をしたときに装置は想定外の作業が行われるのでPLCでは制御不能に陥る。そうすると夜中だろうが構わず連絡が入りクリーンルームへ行くのだ。その間装置は停止したままなので生産が停止し、また筆者も寝ているところを起こされるので、楽しい夢を見ているところを遮断される。いやいや行くので生産性が上がらない。
生成型AIを使えば想定外の作業がなされたときにPLCをAIが自動でアップデートして問題解決ができるようになる可能性があるのではないか、と考えた。装置はその時々に起こった状況を逐次記録している。専門用語で「ログ」と言う。問題が発生した時点で起こったログをAIが解析し、そしてPLCプログラムを自動で再構築することができれば、まさに生産性向上につながる。半導体メーカーも保守メンテナンスに関わる費用を大きく削減することができる。装置メーカーはあまり利益にならない保守メンテナンスを縮小し、その時間は新規装置の開発や装置の製造へ人員配置ができる。労働力が低下している日本では大きな効果が期待できる可能性を秘めている。
なるほど、たしかに生成型AIによる経済的効果だ。
 

上記は筆者が想像た経済的効果であるが、この記事ではディープラーニング(人間の脳でニューロンが信号を送受信する方法を擬似した多層ニューラルネットワーク)を使い次のような革新的技術が完成しその経済効果を提案している。
「〜前略〜しかし、おそらく最も顕著な発展は生成AIの基礎を提供する大規模言語モデル(LLM=Large scale Language Model)の台頭である。LLMの基礎となっているのは2017年にグーグルの研究者が発表した論文で有名になったディープラーニングを基礎技術とした『トランスフォーマー』だ。トランスフォーマーは異なる単語間のつながりや関係を理解するために自己判断の機能を利用する。いわゆるエンベッディング(単語間の関係をマッピングし、独自のニューラルアーキテクチャーを使用する)と共にトランスフォーマーはLLMが自己教師であり、自分で学習することを可能にする。一度学習すればプロンプト(要求事項を文書化もしくは言語化)に応答して次の単語や一連の単語を予測するだけで、人間のような出力を生成することができる。」(i)
これはもはや筆者のように一人で仕事をしている者にとっては無限の経済的効果がある。例えば仕事のアシスタントを生成AIにすれば人件費が不要となり24時間アシスタントとして働いてくれる。
半導体基板には様々な仕様があり顧客の要望によって仕様が異なる。これも生成AIに作成させることも可能だ。仕様書には雛形があり各種内容によって顧客からの要望内容を入れれば出来上がるからだ。もちろん顧客に提出する前に内容の確認は必要になるが、提出書類を作成する手間が省ける。見積書だけは今のところ人の介在が必要になるだろう。でも見積内容と金額を指示すれば見積書はAIに作成し顧客へ送る手配まで自動でできる。受注したら製造するのだが、これもAIに発注書を書かせることも可能だ。完成したら出荷手配するのだが、発注時に発送先が記載されるので工場からは発送先へ配達されれば、その連絡をAIアシスタントが受け請求書を作成し一連の仕事が終了となる。
仕様書の確認と見積書の指示だけはAIには任せられないところだが、それでも同じことを繰り返して学習していけば仕様書の精度は上がるし見積書も経営者の意向を汲み取りある程度は自動化できそうだ。一人で数人分の仕事をこなす事が出来る。生産性は確かに向上する。
 

でも本当に経済的効果があがり人間がゆとりを持ったライフスタイルを得られるのだろうか?仕事はAIアシスタントに任せ自分は釣りなどして楽しむのもいいかも知れないが、どこかに落とし穴がないのだろうか?
本レポートは以下のような警告を発していた。
「最新のAIである生成型AIを含むAIは、世界経済がAIを切実に必要としている今、生産性と成長の大幅かつ決定的な上昇をもたらす可能性を秘めている。〜中略〜
しかし、この可能性を完全に実現するためには、政策にも同じように細心の注意を払う必要がある。政府、企業、研究者は、人間のスキルを代替するのではなく、むしろ補強することを優先する必要がある。そして、AIシステムの利用が労働者自身のニーズに敏感に反応しショックが最小限に抑えられ、過剰な自動化に対する広範な恐怖に対処できるような経済を構築する必要がある。」
(i)
AIの発展と共に労働者への恐怖を与えることを懸念している。さらに以下のように締めくくっている。
「AIの開発は重大な岐路に立たされている。膨大な人間的・経済的利益をもたらす一方で非常に現実的な害をもたらすというこの技術の危うい可能性がクローズアップされつつある。しかし、AIの力を良い方向に活用するには、単に存亡の危機や潜在的な損害に焦点を当てるだけでは不十分だ。AIに何ができるかという前向きなビジョンとそのビジョンを現実のものとするための効果的な対策が必要となる。今日、AIが世界にもたらす可能性の高いリスクはAIが何らかの文明の破局をもたらすことでも、雇用に大きな負のショックを与えることでもない。むしろ、効果的な指針がなければ、AIによるイノベーションは今後何世代にもわたって世界経済の強化をもたらすのではなく、現在の経済格差を単に拡大するような方法で開発・実施される可能性があるということだ。」(i)

 
参考文献
Foreign Affairs November 8, 2023
The Coming AI Economic RevolutionCan Artificial Intelligence Reverse the Productivity Slowdown?
 

画像
参政党神奈川19支部田中譲二氏作成のAIイメージ
ありがとうございました。

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