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2024.01.30

ドイツ農民デモは欧州連合に立ち向かえるか?

ドイツ農民デモは欧州連合に立ち向かえるか?

令和6年1月25日 吉岡綾子(ドイツ在住)

 

ドイツでは今、農家がトラクターデモを行っている。現政権の農業締め付け政策に敢然と「ナイン(No)!」を突きつける形だ。
ドイツの現政権とはアンペル(=信号機)連合と呼ばれる野党連合を指す。即ち緑=緑の党、黄=FDP自由民主党、そして首相ショルツ氏率いる赤=SPD社会民主党の三党支配下に現在のドイツはある。支持率は目下急降下(政権支持率27% 2024年1月12日ZDF調べ)。農民一揆はその象徴と言える。この動きは更にフランス、ポーランド、ルーマニアに広がっている。
 
ところでトラクターデモと聞いておや?と思い当たる節のある読者もいるのではないだろうか?昨年同じようなことが起こった国がある。オランダだ。その前の年にはカナダでトラックデモがあった。いずれも地上波で報道されることは稀だったので必ずしもメジャーな話題とは言えなかった。これらには何か関連があるのだろうか?
 
先ずはドイツにおける農家によるトラクターデモについて、その原因と背景を探って行こう。
 

ーアンペル連合に対する抗議
なぜ農民たちは路上にいるのか

 
全国の農民たちが街頭で、アンペル政権の緊縮財政計画に反対するデモを行っている。彼らはトラクターを市内中心部に進入させ、高速道路の入り口を封鎖している。〜中略〜
農民たちは、連邦政府が彼らに与えた補助金を打ち切る計画に対して公に抗議している。アンペル政権は農民への対応に向けて大きく譲歩したが、それだけでは農民にとって十分ではない。農家に対する減税措置の廃止は、特に中小規模の農場においては不公平であると認識されている。多くの農民も抗議活動で全般的な不満を表明している。ー①
 
今回の農家デモの主たる目的は、突如として浮上した農業用デイーゼルをはじめとする補助金カットに反旗を振りかざすことである。この事態に陥った経緯は年末までに起こった国家予算「消えた600億ユーロ」スキャンダルに端を発している。
その経緯も追って行こう。
 
【その経緯〜消えた600億ユーロの穴埋め】
連邦憲法裁判所の判決
アンペル連合は600億ユーロの流用を許可されていない

 
政府が気候保護のためにコロナ予算を使うことは認められていない。これは連邦憲法裁判所によって決定されたことである。野党CDUは訴訟を起こしていたが、現在ではアンペル政権に対する「究極の警告」が行われていると見られている。連邦憲法裁判所は、連邦政府がコロナ危機と戦うことを目的とした資金を気候保護のために使用してはならないとの判決を下した。ドイツ最高裁判所は、2021年度補正予算の変更は違憲であるとの判決を下した。〜中略〜裁判所はまた、「なぜ資金が後に気候変動対策に使われなければならないのか、なぜそれがコロナの影響を軽減するのに役立つのかをもっと正当化すべきだった」とも述べている。
 
コロナパンデミック中の緊急事態のため、連邦政府は融資認可の形で2021年度予算を600億ユーロ増額した。このような例外的な状況では、債務ブレーキ(筆者注)にもかかわらずローンを組むことが可能である。結局のところ、パンデミックとその影響に対処するために資金は必要なかった。そこでSPD、緑の党、FDPで構成する連邦政府はこの資金をいわゆる気候変動基金に使いたいと考え、連邦議会の承認を得て2022年に遡って再配分した。
 
債務ブレーキ回避のための訴訟
 
連邦議会の連邦議会グループの議員197名は、この方法は債務ブレーキの回避であるとの見方から、カールスルーエで訴訟を起こした。第二上院は新たな問題に対処する必要があった。とりわけ問題は、信用承認が経済危機の影響もカバーできるかどうか、そしてその後の予算変更がいつ決定される必要があるかということであった。〜中略〜
裁判所の判決は明確かつ曖昧さを排除したもので、アンペル政府に対する明らかな限界を示している。 CSUのマルティン・フーバー書記長は、今回の判決はクリスチャン・リンドナー連邦財務大臣とオラフ・ショルツ首相の「巧妙な手口」と「欺瞞政策」の重大な失敗であると評価した。ー②
 
筆者註)第1次世界大戦後の激しいインフレを体験したドイツは、憲法にあたる基本法で政府の債務をGDP=国内総生産の0.35%未満に抑える「債務ブレーキ」と呼ばれる財政規律を守るルールがある。例外的に国家が巨額の財政出動を行う場合は、議会が緊急事態だと認め、適用を除外する必要があり、ドイツ政府が2021年度の補正予算で、新型コロナ対策の資金のうち未使用分600億ユーロを翌年度以降の気候変動対策などに転用したことが財政規律を守る観点から違憲だと判断されたのが2023年11月15日のことだった。農家への補助金支給カットはこの背景の元で行われた。ー③
 
【農家の苦悩〜環境保護の名の下の制限】
 
◯ 高速道路料金大幅値上げ
料金無料で有名なドイツのアウトバーンだが実は大型車両は有料である。この料金が2025年7月より大幅値上げをする。対象車両もこれまでの7トン以上から3.5トン車両と一気に拡大する。ガソリン代も高騰する中輸送費用は爆上がり。ー④収穫までにかかる費用だけではなく輸送にも重い頸木がかけられている。
 
◯ 肥料・飼料の高騰と使用制限
化学肥料・家畜飼料は窒素を含みCO2を排出するため、年々規制が激しい。最新の規制は2020年のものだが非常に細かく、又更新されるごとに厳しい内容になっている。肥料の種類や季節、土地の勾配別に制限が決められている。これら制限はその基準をEUに持ち、全ドイツで均一である(地域ごとの事情等の考慮はされない)。ー⑤
 
【アンペル野党連合の締め付けの元に起こるデモ】
 
しかしドイツ農家の苦悩は今に始まった話ではない。環境保護の名の下に次々と締め付けられ、しかしインフレに喘ぐ社会では農作物の値上げも容易ではない。大型店舗からの圧力も大きくまさしく政府と消費者の板挟みに遭っている現状だが、それでもなんとかやっていけていたのは補助金の存在が大きかったからである。2021/2022度では平均農家一軒当たり2900ユーロと言われている。地方によっては明らかにこれより多かった。ー⑥
今回の補助金削減は農家にとって明らかな梯子外しである。
 
1月8日、ショルツ首相は、「批判は民主主義の一部であり、必要なものだ。それについては誰も文句を言うべきではないし、私も言わない」と弱気のコメントを発表。1月4日の時点で政府は農家への補助の一部のカットを取り止めを発表。デモを中止させようと試みたのだが農家と国民の怒りは収まらずー⑦、小休止を挟んで1月23日から再び1週間のストライキを敢行中である。現在のところ解決の見通しは立っていない。
 
【EU環境基準への反旗〜次にジョイントするのはどの国か?】
 
ドイツ農家の怒りは昨年末のアンペル連合政府の不作為の皺寄せから暴発した。ただし、前述の通りこれだけが理由ではない。ここまで溢れださんとしていた不満が補助金スキャンダルによって形を得ただけで遅かれ早かれその日は来るはずであった。なぜなら締め付けの大元はドイツ政府そのものというよりもその上位に属する欧州連合の環境基準に端を発しているからである。EUの定めた窒素の排出基準の大元はCOP28(第28回気候変動枠組条約締約国会議)に代表される環境政策に遡る。ー⑧
昨年、オランダで同様のデモが起こった際にはドイツなど近隣国からも同胞が集ったということだ。今回もドイツに続けとばかりにフランスで、そして他のヨーロッパ諸国に広がりを見せている。ドイツ人はドイツの内政にの不策のツケを農家に押し付けられたことから一気にエネルギーを爆発させたが、近隣国が一斉蜂起したことは、この問題がヨーロッパの共通課題である証左である。
 
大国の問題を論ずる時、問題の大元を突き詰めていくと最後にはこの環境問題に帰結することがしばしだ。気候変動という、ここ10年ほどで出てきた新ワードや世界規模の環境対策に疑義を挟む人々が増えてきた。今、ドイツを中心にヨーロッパで起こっている農民の怒りがこれに当たる。果たして彼らの動きはヨーロッパを動かすことができるのか?どこにその出口を見出すのか?しばらくは欧州から目が離せない。
 

アンペル連合に対する抗議 なぜ農民たちは路上にいるのか
アンペルは600億ユーロを先送りしてはならない
独首相 異例の“財政規律の適用除外”を要請へ 財政問題受け
トラックの通行料金が上がると消費者物価も上がる?
肥料条例 – 農業と園芸にはどのような規則が適用されるのか?
これほど多くの補助金をドイツの農家は得ている
続く抗議行動:ショルツ首相、削減計画に足踏み
COP28
 
参考
一回死んだ男の言いたい放題チャンネル「ドイツ農民デモ勃発」

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