TRANSLATED ARTICLES

2024.02.29

シン・GDP第3位国の倒産ドミノ

シン・GDP第3位国の倒産ドミノ 

令和6年2月26日 吉岡綾子(ドイツ在住)

 
【喜ぶべき結果?】
 
「過去最低の排出量 2022年、温室効果ガス排出量が驚くほど大幅に減少」①
 
街の中心部のあちこちにあるパブリックビューイングにこのニュースが大々的に映し出されたのは今年年頭のことであった。大きな文字で誇らしげなこのニュースタイトルを見た時、筆者は一瞬めまいを感じた。明らかにCO2排出量の減少を高く評価している文言である。ニュース本文を目で追いながら、街行く一人一人に「この報道の異常さを理解できないのか?」と問い正したい想いでいっぱいになったものだ。
一体何を喜んでいるのだろう?CO2排出量が減ったから地球に優しい国家としての矜持を保つことができたと喜んでいる場合だろうか?これの意味するところがわからないのだろうか?答えは目の前の空き店舗の列に如実に現れているではないか!
 
「ドイツでは昨年、6億7300万トンの温室効果ガスが排出された。これは2022年比で10%減、通常削減の基準年として使われる1990年比で46%減である。これは記録的な低水準だが、ロビー団体「アゴラ・エネルギーヴェンデ」の専門家たちは、慎重な見方をしている。これは減少の理由による。プラス面では、風力と太陽光による再生可能エネルギーがより多く利用された。さらに、昨年はドイツ国内の電力需要が減少し、他国への電力輸出も減少した。それに伴い、ドイツの発電所で燃やされる石炭も減少した」①
 
それどころかこの記事は、現状に更に追い打ちをかけ
「この減少はあまり持続可能ではない。つまり、景気が上向けば、温室効果ガスの排出量も増加する可能性が高い」①
と景気上昇に対する危惧で結んでいる。つまりドイツ経済はこれ以上伸ばしてはいけない。すべては環境のため。地球を守るためにヒトはどうなっても良いという論調だ。この日、各紙一斉にドイツのCO2排出量通信簿の好成績は讃えられ、しかし同時に「キミはやればもっと出来るはず。本気出していこうよ!」と肩を叩かれるという羽目に陥ったのである。
 
ードイツの排出量減少は遅すぎる
 
「連邦環境庁の計算では、温室効果ガスの排出量は減少している。しかし、運輸部門とエネルギー部門は目標を達成できなかった。
ドイツの温室効果ガス排出量の減少は遅すぎる。連邦環境庁(UBA)の計算によると、2022年のドイツにおける気候に悪影響を与える温室効果ガスの排出量は1.9%しか減少していない。しかし、UBAのディルク・メスナー会長は、2030年までにドイツ政府の気候変動目標を達成するためには、年間6%の削減が必要だと述べた」②
 
ードイツが世界第3位の経済大国に
 
日本でもGDPがドイツに抜かれたというニュースは大々的に報道されたようだ。もちろんドイツでも「ドイツは今、方向転換のお手本」「2023年の日本の国内総生産(GDP)は名目ベースで0.2%縮小するのに対し、ドイツのGDPは名目ベースで8.5%増加」などと大きく報道された。③コロナ後にウクライナ紛争やエネルギー危機を抱え、なんとなく暗い先行きなのかと思いきや、さすがはEUの牽引役ドイツ!この国の未来は明るい!と考えた人も少なくないようだ(実際に筆者も駐在員のパーティーやドイツ人たちとの会話の際にそのような発言を耳にした)。人心を活気づける話題は経済への好影響をもたらすから、少しでも明るい話題が大切だという意味ではドイツにおけるこの報道姿勢は間違ってはいない。だが鵜呑みにして本気で浮かれる経済人がいるとしたらそれは余程の不勉強と言わざるを得ない。高インフレ、付加価値税(消費税にあたる)19%のドイツがデフレで消費税10%のGDPを抜いたからと言ってドイツ経済に大きな光が差す要素は決して多くはないのだから。ドイツ商工会議所(DIHK)は15日、今年のドイツの経済成長率はマイナス0.5%との見通しを示している。④
「第3位の座を譲らなければならない日本は、インフレ調整後の成長率ではドイツを上回っている。しかし、自国通貨である円には大きな圧力がかかっており、日本経済はドルベースでドイツ経済に遅れをとっている。」という訳だ。③
環境大国、CO2排出量ではお手本国、しかもGDPでは世界3位に躍り出た。数字上でのこの事実と、しかしながらドイツ在住の筆者の目に映る街の異変を、それではどう説明をつければ良いのだろう?
 
 
【倒産ドミノ】
 
今、ドイツはそれどころではない。この冬、道ゆく誰の目にも明らかな異変が起こった。倒産ラッシュである。特にアパレル業界だ。
 
シン・GDP第3位国の倒産ドミノ
ーミュンヘンのオーバーポリンガー、”法外に高い賃料 “が原因で経営破綻
 
ノイハウザー通り。ミュンヘンを訪れる人ならばこの通りに足を踏み入れない人はいない。西の市門であるカールス門側の老舗高級デパートであるオーバーポリンガーがなんと破産申請。ここは「ミュンヘンのラグジュアリーの象徴」といわれた伝統的かつ豪華な建物である。カールス門を挟んで斜向かいにある大型デパートのカウフホーフも現在1年以上居抜き状態、市庁舎に近い大型スポーツ店ビルであるスポーツシェック、ここもミュンヘン子なら知らぬ者はいない大ビルの店舗である。これらが次々と経営破綻の憂き目に遭っている。「アルテ・アカデミー、旧カルシュタット、主要駅にある旧ヘルティー百貨店、旧カウト・ブリンガー・ビルなど、いずれも当面は廃墟と化し、この先何年も廃墟のままかもしれない」⑤
 
大型ビルのデパート、しかも旧市街の中心も中心地から次々と有名店が破綻していく寒々しさは日本に例えると三越に高島屋、ユニクロなどが次々と倒産していく様なものであろうか?
だがドイツのアパレル倒産ラッシュはこれに留まらない。以下、順に列挙しよう。
 

ーDepot, Douglas, Galeria, H&M & Co. 街の中心からこうした店が消えつつある

 
「コロナウイルスの大流行から2年が経過し、都市中心部の店舗はまさに絶滅の危機に瀕している: 特に2020年と2021年には、多くの有名小売チェーンが生き残るために厳しいリストラ策を実施しなければならなかった。しかし、コロナウイルス感染3年目も小売業界の危機は続いており、すでに2023年に最初の店舗閉鎖が発表されている。」⑤
 

・オルセーが全店閉店 – ドイツのファッション・チェーンが閉鎖

・ガレリア・カルシュタット・カウフホーフ 172店舗のうち約60店舗が永久に閉店 数千人の従業員が職を失った。

・ダグラス ドイツ最大の香水チェーン店ダグラスは、ドイツの都市中心部にあるほぼ7店舗すべてを閉鎖せざるを得なくなった。430以上の店舗のうち約60店舗を閉鎖。オンラインシフトへ。約600人が職を失った。

・アドラー・モーデメルクテ(衣料品チェーン店)破産申請 約30店舗 約500人が削減

・H&M、250店舗の閉鎖を計画

・ZARAが1200店舗を閉鎖

・ピムキー(フランスのファッションチェーン)ドイツにある75店舗のうち40店舗を閉鎖 約150人の従業員

・C&A ドイツ国内にある約450店舗のうち13店舗を閉鎖

・ランナーズ・ポイント、全店閉店 73店舗

・スイスのTally Weijl 従業員の3分の1が退職

・ハビタット(家具イケアグループチェーン)ドイツ国内の6店舗はすべて閉鎖

・デポ(装飾品)60店舗を閉鎖

・サターンとメディア・マルクトが赤字店舗を閉鎖 

 
 
【不動産業界の激震 そしてエルプタワー】
 

ファッション業界・健康ビジネス・自動車そして不動産王の没落、、これらは2023年に起こった倒産・再建手続きの顛末である。
エネルギー価格の高騰、需要の減退、経営判断の誤りによる債務超過。典型的な衰退の三連鎖である。2023年に多くの企業で起こったことであり、さまざまな要因によって悪化した。その結果、年末までに260件の大型倒産が発生する可能性があると予想されている。
 
シン・GDP第3位国の倒産ドミノ
ーエルブタワーの破産
 
「エルブタワーは、ハンブルクのハーフェンシティの東端に建設されている。当初の計画では、エルベ橋近くの超高層ビルは高さ245メートルで、ドイツで3番目に高いビルになる。オフィス、ショップ、ギャラリー、レストラン、そして55階には展望台が計画されている。費用は今のところ9億5000万ユーロと見積もられている。しかし、建設現場は昨年10月末から止まっている。高さ100メートルの地点で、請け負った建設会社は請求書が支払われないため作業を中断している」⑧
 
ドイツ連邦首相オラフ・ショルツ氏の地元ハンブルクで、州政府首相時代に彼の手掛けたインフラとして音楽堂エルプフィルハーモニーが2017年に完成、その対岸に建設中であった高層ビル建設はこのまま完成を見ぬまま廃墟と化す可能性すらある。ショルツ首相の面子丸潰れの事態である。
 
上記に挙げた大型店舗の多くを筆者も日常的に訪れている。比較的小型店舗の場合、スムーズに新しいテナントを交代させ街の外観的には何事もなかったかの様に取り繕って見せているケースもあるが大型ビルの場合は容易い作業ではない。すでに2022年9月に閉店となったカウフホーフデパート カールス広場店などは現在なお居抜きのままで、時折、新聞紙上に再開発案が浮上するもこれといった決定打の無いまま時を重ねている。
 
街中のアパレル店やデパート、高層ビルの空きビル化は我々一般大衆の目に留まりやすく心的ダメージを大きくする。無論、経済効果に悪影響である。このようにはっきりとは目に見えないところで一体いくつの企業が経営破綻に陥っているのだろう?一体何人の人々がレイオフの憂き目に遭っているのだろうと淋しい想像をしてしまう。
 
GDP堂々の第3位に駆け上がった欧州一の大国の歩みは今、薄氷を履(ふ)むが如き危険水域にある。
 

過去最低の排出量 tagesschau. 04.01.2024

ドイツの排出量減少は遅すぎる. ZDFheute 15.03.2023

ドイツが世界第3位の経済大国に Handelsblatt 23.11.2023

ドイツ経済成長率、2024年はマイナス0.5%に=商工会議所 2024年2月15日

ミュンヘンのオーバーポリンガー、”法外に高い賃料 “が原因で経営破綻。Abendzeitung 06.02.2024

Depot, Douglas, Galeria, H&M & Co.街の中心からこうした店が消えつつある 23.11.2022 ZDF

BenK.O., Peek & Pleite und die Hölle der Löwen Wirschaftswoche 28.12 2023

エルブタワーの破産:市と投資家は新たな機会を見出す 20.01.2024

BACK