TRANSLATED ARTICLES

2021.07.27

アメリカ軍が恐れる中国人民解放軍の兵器

2021/07/27 台湾軍事ニュースネット

 

中国の習近平主席が繰り返し「台湾と尖閣諸島は中国の核心的利益」と表明するなか、人民解放軍による台湾・尖閣列島への軍事的侵攻(ホットウォー)の可能性も取りざたされている。現時点で保有している兵器・装備や軍隊の練度を冷静に比べると、中国は追い上げているとはいえまだ海軍力も空軍力もかなり米国が優位と言える。

 

しかし具体的な台湾侵攻のシミュレーションにおいてはアメリカ側には明白な弱点がある。即ち台湾に常駐軍がいないので人民解放軍が台湾に電撃進行した場合後手を引いて戦いが不利になる可能があるのだ。人的被害を最小にしたいと考えている米軍はこの結果を利用し米議会に対して台湾常駐を求めるアピールをしていると筆者は分析している。その中で一点米軍が恐れている人民解放軍の兵器がある。それについて米ソ冷戦から始まる歴史的背景やアメリカ軍の対応策などを紹介してみたい。

 

歴史的背景

米ソ中距離核戦力全廃条約(INF):

アメリカ合衆国とソビエト連邦との間に結ばれた軍縮条約の一つで、中距離核戦力(Intermediate-range Nuclear Forces、INF)として定義された中射程の弾道ミサイル、巡航ミサイルを全て廃棄することを目的としている。この条約では射程が500kmから5,500kmまでの範囲の核弾頭、及び通常弾頭を搭載した地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルの廃棄が求められている。西側陣営と東側陣営の対面していたヨーロッパで戦争の勃発を抑止することで、比較的に飛行距離が長い核戦力のみで、アメリカとソ連の直接対峙により核抑止論を成立させようとすることである。

中国はこの条約に縛られないので、米ソが中距離ミサイルを削減していた時も自国の中距離ミサイルの増加に務めていた。その結果中国の中距離・準中距離・短距離ミサイルの合計が405基であるのに対して米国もロシアも保有数はゼロだ。中国の正確なミサイル保有数はもちろん軍事機密なので、この数字は米国戦略国際問題研究所の推定を基にまとめたもので、一説には1,000基超えの主張もある。

アメリカは2019年2月1日に本条約の破棄をソ連の後継であるロシア連邦に通告したことを明らかにしており、これを受けてロシア連邦も条約義務履行の停止を宣言した。破棄通告から6か月後の8月2日に失効したので、現在は中距離ミサイルの開発・製造を始めている。
(参考資料:1)

中国のミサイル配備と威嚇

人民解放軍は南東沿岸のミサイル基地を継続的に強化:

「北京軍事筋によると台湾侵攻のため人民解放軍は南東沿岸のミサイル基地を継続的に強化」という記事を掲載したのは台湾の自由時報だ。自由時報は記事の中で著名なカナダ在住の中国軍事ウォッチャーで「漢和防衛評論」の主幹である平可夫氏の説を引用し、「解放軍は東部戦区と南部戦区でミサイルの基地を既に2倍に増強した。

 

中国は現在台湾侵攻準備の方針のもと非常に緊張して軍事拡張を進めている」と述べている。ミサイルの種類に関しても「以前のDF-11やDF-15では射程不足で台湾中部の高い山脈を超えて台湾東部を攻撃できなかったが、新しいDF-21や極超音速のDF-17ではそれが可能で、東部の花蓮や台東に駐屯している空軍基地を攻撃できる」と述べている。(参考資料:2)

「空母キラー」ミサイルの実験による威嚇:

昨年(2020年)の8月に浙江省からDF-21ミサイル青海省からDF-26ミサイルを海南島と西沙諸島の間を自動運転で航行している米空母に見立てた廃貨物船に向けて発射し命中、船を撃沈させている。一説には2発ずつ撃ったのに1発ずつしか命中していないという説もある。防空能力がなく進路が分かっている貨物船に当てても自慢できるものではないが、中国内陸部から南の海南島付近まで飛ぶミサイルがあるということは実証されたと思う。(参考資料:3)

 

米国の対抗処置

戦略爆撃機を米本土からの運用に切り替える:

米空軍は昨年(2020年)4月に中国や北朝鮮に対抗するためグアムに前方展開していた戦略爆撃機に関し、今後は米本土からの運用に切り替えると発表した。グアムのアンダーセン空軍基地に配備されていたB52戦略爆撃機5機は米中西部ノースダコタ州のマイノット空軍基地に移動したとしている。米軍は2004年以降、戦略爆撃機のB52やB1、B2を交代でグアムに配備し中国や北朝鮮に対する抑止力を維持するとともに、日本や韓国などの同盟諸国に向け米国がインド太平洋地域に関与していく姿勢を打ち出してきた。
しかしグアムは中国の中距離弾道ミサイルの射程圏内にあり有事の際は真っ先に標的となる可能性が高いなど、脆弱(ぜいじゃく)性が指摘されていた。(参考資料4)

 

米海兵隊が前線にミサイル部隊を配置予定:

米海兵隊幹部は昨年時事通信との電話会見で2027年までに対艦ミサイルなどを装備した「海兵沿岸連隊」を3隊創設し、沖縄とグアム、ハワイに配置する考えを明らかにした。総司令官は3月海兵隊が今後10年間で目指す方針を示した「戦力デザイン2030」で、戦力構成を抜本的に見直し対中国にシフトする姿勢を鮮明にしている。(参考資料5)

おわりに

中国は米ソ間の中距離核ミサイル全廃条約のスキを突き、米国が条約に縛られ中距離ミサイルを配備できないなか多数の中距離ミサイルを配備し攻撃力を高めた。一部DF-17というマッハ5以上で飛行する極超音速のミサイルを中国が保持している説もあるが、筆者は現時点では「張子の虎」(実態の伴わない威嚇)だと思っている。対抗する米国の戦略は大きな部隊は下げ小さな部隊を分散して前線に配備して、万一一か所がやられても他所から報復するという構えだ。また米国は経済制裁などで圧力をかけ中国を米中中距離ミサイル削減条約に引きずり込む可能性もあると推測している。昨日(2021年8月28日)イギリスのクイーン・エリザベスを旗艦とする空母打撃軍が南シナ海に進入した。今後の展開から目を離せない。

参考資料
参考資料1(日本語):中距離核戦力。毎日新聞、
https://mainichi.jp/articles/20190803/ddm/007/030/122000c

参考資料2:引用元(中国語・台湾)台海軍情》中國在東南沿岸部署東風-17高超音速飛彈 劍指台灣
https://news.ltn.com.tw/news/politics/breakingnews/3324747

参考資料3(英語):“Warning to the United States!” China Fires DF-26B & DF-21D Anti-Ship Ballistic Missile (ASBM) “Aircraft-Carrier Killer” into South China Sea、Andrew S Erickson, 2020/08/27、
https://www.andrewerickson.com/2020/08/warning-to-the-united-states-china-fires-df-26b-df-21d-anti-ship-ballistic-missile-asbm-aircraft-carrier-killer-into-south-china-sea/

参考資料4:引用元(日本語):米空軍、戦略爆撃機をグアムから撤収 米本土からの運用に切り替えへ、産経新聞、2020/04/19、
https://www.sankei.com/article/20200419-CMXCIBXNERK6FN6EOPA2SA66J4/

参考資料5:引用元(日本語):27年までに「新ミサイル部隊」=対中国、沖縄に展開―米海兵隊トップ会見、ARAB NEWS、2020/07/24
https://www.arabnews.jp/article/japan/article_18993/

BACK