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2021.09.22

中国は改革開放路線を捨て、第二の文化大革命に向かうのか?

2021/09/22 台湾軍事ニュースネット

中国は改革開放路線を捨て、第二の文化大革命に向かうのか?

先日(2021年8月)閉会した東京オリンピックの表彰式で、中国選手が胸に毛沢東バッジを付けて表彰台に上りIOCの警告を受けたことを覚えている方も多いだろう。(参考資料:1)写真を見ると20歳前後の若い選手で、過去の文化大革命がどれだけ悲惨かを知らない、知らされていない世代だ。私の想像だが彼らは政治的にノンポリで周りの空気に従ってバッジを付けただけだと思う。逆に言うと政治に無関心な層がバッジをつけねばと感じるほどの無言の圧力が中国にはあるということが驚きだった。

中山服姿の習近平

今年は中国共産党結党100周年であった。その記念演説に登壇した習近平が着ていた服が、「中山服」といわれる、毛沢東が着ていたものと同じだった。しかも演台にはくっきりと社会主義の印である「鎌とハンマー」のマークが付けられていた。この演説と写真はアメリカの経済紙ウォールストリートジャーナルにも取り上げられていて、「習近平は中国資本主義の抑制を目指し、毛沢東主義の社会主義ビジョンを強調」したと報じている。(参考資料:2)このようにアメリカの経済界も中国の新しい政治的動きに注目しているようだ。

解放的な政策から、閉鎖的な政策に

習近平の演説に呼応するように矢継ぎ早に「英語教育の縮小」「学習塾の禁止」「カラオケの外国曲の禁止」「ゲーム時間の制限」などの方針が打ち出された。(参考資料:3および4)この背景にあるものは、外国文化の浸透を防いだり、優秀な人材の国外流出を減少させたりするとともに、教育費にカネがかかり過ぎることを防止して少子化対策にしようとするものだとみられている。中国が世界の工場として伸びてきた要因の一つは安価で豊富な労働力であった。しかし人口統計をみると、労働人口は昨年をピークに減少に転じている。それは一人っ子政策のせいだと思われてきたが、一人っ子政策が終わり二人以上の子供が持てるようになっても人口は上昇に転じない。筆者の中国人同僚たちは二人目を産もうとしなかった。夫婦共稼ぎなので、日本円で年収は軽く一千万円を超えているはずなのだが、「教育費がかかるので2人なんて無理」という話だった。

一方で習近平思想の学習が義務化される。台湾紙はこれを「小学生からの洗脳教育」と酷評している。(参考資料:5)その周近平思想の中で打ち出されたのが「共同富裕」という考え方だ。これは、鄧小平の打ち出した改革開放路線の中心思想「先豊論」に真っ向から対立するものだ。先豊論とは「我々の政策は、先に豊かになれる者たちを富ませ、落伍した者たちを助けること、富裕層が貧困層を援助することを一つの義務にすることである。」というものだ。前の部分の「先に豊かになるものを富ませ」は実際に実行されてきたのだが、「富裕層が貧困層を援助することを一つの義務にすることである。」の部分は全く無視されてきた。

「共同富裕」を推し進める経済政策

習近平の推し進める経済政策は、中国経済を弱くしようとする印象を受ける。アリババに制裁したり、会長のジャック・マーを事実上軟禁したり、アリババを企業分割しようとしたときは、習近平の政敵である江沢民につながる勢力だからとウォッチャーは観ていた。(参考資料:6および7)、しかし世界を驚かせたのは習近平が米国でIPO(新規株式上場)を強行した配車サービス滴滴にIPOを取り消させ罰則を与えようとしていることだ。(参考資料:8)いままで中国企業をアメリカで上場させ資金を調達してきた中国にとって、ドル資金の調達の道を断つ自殺に思われる行為だからだ。

現在世界の経済関係者のホットな話題は、中国最大手の不動産デベロッパー恒大集団に対する中国共産党中央の融資判断だ。債務額30兆円ともいわれる恒大集団を救えるのは、額が大きすぎてもはや共産党中央しかないと思われている。その指導者の習近平は「脱虚向実」という「投資・投機を止めて製造に向かおう」というスローガンを掲げている。9月末の段階ではついに恒大集団株に先導される形で香港市場、特に先物市場が暴落した。(参考資料:9)これは、中国共産党中央は恒大集団を見捨てるだろうという判断を市場がしたからだ。

卵が先か鶏が先か?

ここに述べたように中国経済が今までにない危機に陥っているのは疑いようがない。もっともそれで経済全体がクラッシュするかどうかは不明だ。明日クラッシュしても驚かないし、あと10年持つ可能性もある。習近平が打ち出した文化大革命をほうふつとさせる「共同富裕」は、その経済状況の結果だろうか? それとも習近平の政策が経済危機を呼び起こしているのだろうか?

中国共産党は「政治的な自由のなさ」を「経済的に豊かになった」という事実で大衆を納得させてきたし、それは成功してきた。特に3-4億人の富裕層は日本の平均レベルと同じか、それを超える富を保有している。一方残りの10億人程度の人は李克強首相の全国人民代表大会での報告にあるように月収1万五千円程度で暮らしている。電気の通ってない村もまだまだ多い。ところが不動産投機の過熱、製造業の中国から東南アジア諸国などへの流出により、この貧困層に「これから豊かになる」という夢をみさせることができなくなったというのが本音ではないだろうか?社会の安定を保ってきた「順番に皆が豊かになる」という根本的原理が破城してきている。それを思想教育で押さえつけようというものではないだろうか?実際は「皆で豊かに」ではなく「皆で貧しくなる」という結果しか見えないが。

おわりに

今回は中国の戦狼外交やウイグル・香港などの人権問題には全く触れなかった。しかしこれらも現在の中国の政治や経済に大きな影響を与えていると思う。別の稿で詳しく論じたいが「中国の夢」という習近平の言葉がすべての根幹だろう。ただこの「中国の夢」が実現したとして、大多数の中国人民にも隣国の日本人にも良い結果はでないと思う。

参考資料
参考資料1(日本語):毛沢東バッジ着用をIOCが警告、中国側は再発防止を約束、AFP BB News、2021/8/07
https://www.afpbb.com/articles/-/3360771

参考資料2(英語):Xi Jinping Aims to Rein In Chinese Capitalism, Hew to Mao’s Socialist Vision、The Wall Street Journal、2021/9/20
https://www.wsj.com/articles/xi-jinping-aims-to-rein-in-chinese-capitalism-hew-to-maos-socialist-vision-11632150725

参考資料3(日本語):中国・上海で小学生の英語試験禁止 習思想は必修化、日経新聞、2021/8/13
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM103LU0Q1A810C2000000/

参考資料4(日本語):中国で「塾禁止令」、親や教育界に激震 背景にある大きな社会課題とは?、Yahoo ニュース、2021/8/26
https://news.yahoo.co.jp/articles/1905047371000b6f73c162da9c77a1062bec70e2

参考資料5(中国語・台湾):從小洗腦 中國中小學必修習近平思想、自由時報、2021/8/12
https://news.ltn.com.tw/news/world/breakingnews/3635794

参考資料6(日本語):創業者ジャック・マー氏が3カ月ぶりに姿を現しアリババ株が急上昇、Tech Crunch Japan、2021/1/21
https://jp.techcrunch.com/2021/01/21/2021-01-20-jack-ma-resurfaces/

参考資料7(英語):Alibaba slides on report China plans to break up payment app、BBC、2021/9/13
https://www.bbc.com/news/business-58540935

参考資料8(日本語):中国、IPO強行の滴滴に前例ない規模の罰則を検討-関係者、Bloomberg、
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-07-22/QWN4JMDWLU6N01

参考資料9(英語):Hong Kong Stocks Crash, Futures Slide As Markets Finally Freak Out About Evergrande Default Contagion、Zero Hedge、2021/9/19
https://www.zerohedge.com/markets/hong-kong-stocks-crash-futures-slide-markets-finally-freak-out-about-evergrande-contagion
=====参考資料ここまで=====

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