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2021.12.25

台湾有事、日本はどうする

台湾有事、日本はどうする

 

2021/12/25 山下政治

 

チャイナが戦闘機による台湾への領空侵犯始めとする恫喝行為を繰り返し行っている。このままエスカレートすると台湾への武力行使があるのでは、と思ってしまう。いままで何の成果も上げていない習近平チャイナ国家首席は台湾を統合し国内に向けて実績作りに躍起になっているのだろう。

さて、台湾有事の際、「日本は台湾防衛をするだろうか」と題したレポートがCATO研究所から発表された。「日本政府が、チャイナとの戦闘で米国を助けると言っても信じられるだろうか?」と日本の軍事介入に疑問を寄せる副題もついている。

チャイナが台湾を攻撃した場合であるが、同レポートは軍産複合体の付属機関であるランド社のボニー・リン氏の講演を引用し「日本やオーストラリアなど、米国に最も近い同盟国であっても、制約を受けて貢献できない可能性がある。[1]」やはり米国は日本による軍事介入はないという判断をしているようだ。もっとも日本が軍事介入できないようにしたのはGHQの作ったした憲法第九条ではあるのだが。

米国は台湾との外交上の正式な承認を1979年に取りやめてはいるが、同年に台湾関係法を制定しており台湾の集団的自衛権は確認している。同法では「非平和的な手段で台湾の将来を決定しようとする行為は、西太平洋の平和と安全に対する脅威であり、米国にとって重大な懸念である[1]」としており「米国はまた台湾が十分な自衛能力を維持するための防衛装備品とそのサービスも提供している。[1]」
このように米国は台湾を自ら率先して防衛する意思があるかのごとく国際問題評議会では記されているものの、本音はもっと異なるところにあるように思う。前述のCATO研究所のレポートは「米国は同盟国に、これまで以上に対立的な対チャイナの政策を支持するように働きかけている。それには理由があり、アメリカは単独で戦争をしたくないのだ。[1]」

米国からみれば台湾はほぼ地球の裏側であり小さな島国である。コストのかかるそんな遠い場所まで行って戦争をする意味がどこにあるのだろうか、と考えているのだろう。さらに今まで世界の警察として巨大な軍事力をもってイラクやアフガニスタンを制圧してきたがそれはAK-47で武装した反乱軍であったのだ。しかし核武装した相手との戦闘となると空母数隻は海の藻屑となる覚悟が必要だ。米原子力空母にはおよそ5,000人の乗組員がいる。空母数隻が海の藻屑となると相当数の海軍兵士が一気に死亡するわけだ。これを知れば米国の世論はどう動くだろう?

翻って日本に目を向けてみよう。菅前総理大臣とバイデン大統領との首脳会談では北京が台北を攻撃した場合、日本は米軍を支援して北京に対抗するという約束を求められた。共同声明で台湾に言及したのは初めてのことである。「菅前首相は『強制力をもって現状を変更しようとするいかなる試みにも反対することで合意した』[1]」と述べた。しかし、国内からの批判を受けて、自衛隊が台湾防衛のために出動することはないと説明し、公式声明は「軍事的関与を全く前提としていない[1]」と条件付け。さらに、麻生太郎副総理は、この混乱に拍車をかけた。台湾に「大きな問題」が発生した場合、「日本とアメリカが一緒に台湾を守らなければならない[1]」と述べた。
このように台湾がチャイナから攻撃を受けた時、日本は未だどのような対応を取るのか混乱状態なのである。

 

ここでそもそも論を論じてみたい。米国際問題評議会の「台湾に自衛権があるのか?」と題したレポートが11月23日に発表されている。このレポートはまず台湾の国際的な法的地位について台湾側の主張とチャイナ側の主張を取り上げている。

  • 台湾側主張
    「独自の国防を維持し、独自の外交を行う主権的で独立した国家[2]」
    事実上台湾は蔡英文氏による独自の政治と活気に満ちた民主主義が機能しており文字通りの独立国家と言って間違いない。国際習慣法によれば「台湾は、恒久的な人口、明確な領土、一つの政府、国家との関係を結ぶ能力を持っている。この考え方は『宣言的国家論』と呼ばれ、他国からの外交的承認の有無にかかわらず、台湾を独立国とみなすものである。[2]」
  • チャイナ側主張
    「構成的国家論」では「中華民国は1971年の国連総会で中華人民共和国に席を奪われ、ジミー・カーター政権が米国の承認を中華民国から中華人民共和国に移し、カーターは後に中華人民共和国の『一つの中国政策』を認めたことで、中華民国は外交的な打撃を受け[2]」これによってチャイナ側では「台湾はチャイナの省であり共産党政府が常に完全な権限を持つ[2]」。

そして本レポートはチャイナの軍事的攻撃に対して台湾は法的防衛権をもつのか、と考察する。

国連憲章では個別的・集団的自衛権は確立されている。台湾が国際法上国家としての人格を有していれば台湾は揺るぎない自衛権を持つ。しかし前述の「構成的国家論」を唱えるとなるとチャイナと台湾の軍事衝突は北京の立場では内乱、台北の立場からは内戦ということになる。

しかし、内乱、内戦のいずれかに分類されたとしても国際問題評議会では「中国が台湾海峡を越えて侵攻すれば、国連憲章に反して国際的な平和と安全を脅かすことは否めないため、台湾は自衛行動をとることができるのである。台湾を国家として公式に承認している政府が少ないからといって、国際的な平和と安全を混乱させ、国際法に深く組み込まれた自決の原則に挑戦する中国の攻撃の違法性が減じることはない。[2]」と台湾の自衛権を有する立場をとっている。

このように台湾には自衛権がある、との前提で米国は台湾への防衛装備品の輸出を認めているのだろう。そしてチャイナからの軍事的攻撃に対して独自防衛するよう促しているように思える。

日本の台湾防衛に対してCATO研究所は日本の行く末を案じてか否定的な論調だ。「東京は、台湾を無視して、フィリピン、インドネシア、ベトナム、オーストラリアなどの他の地域の国々と協力する方が安全かもしれない。いずれの国も、領有権争いをはじめ、中国の思惑を懸念する理由がある。しかし、いずれの国も自国の独立を脅かすような明白な脅威はない。また、これらの国に対する北京の関心は、台湾に比べてはるかに低い。[1]」日本は、チャイナが台湾へ軍事的攻撃が開始されても台湾防衛すべきでない、という理由を述べている。しかし米国の本心は別のところにある。日本が台湾防衛した場合チャイナは日本への攻撃を躊躇しないだろう。そしてターゲットが東京と自衛隊であるのはもちろんのことだが、同時に日本全国には米軍基地がどれほど多く点在することか!核弾頭を積んだミサイルが米軍基地に1発命中するだけで基地は破壊され多くの米軍兵士が葬られる。それを米国が望むはずがない。

 

台湾がチャイナの手に渡れば次は尖閣諸島、沖縄、そして九州と迫りくる順路が十分想定可能なチャイナの脅威に対して日本は台湾を死守する必要があることは十分承知した上で、しかし本当に日本は台湾防衛が可能なのか?米国はおそらく台湾の独自防衛でなんとかチャイナの侵略を防いでもらいたいと考えているだろう。そして自衛隊の台湾派遣は阻止したいのかも知れない。

筆者は、米国はすでにプランBを発動しているのかも知れない、と考えている。米国の「Chip for America Act」という法案の可決により台湾の最先端半導体工場TSMCをアリゾナに誘致した。台湾がチャイナに侵略された時に台湾のTSMCを破壊してチャイナの手に渡るのを未然に防ごうとしているのではないかと思わせる行動だ。

 

台湾有事、米国は着実に準備している。さて、日本はどうする?

 

参考文献
[1] CATO Institute, August 12, 2021, Woulld Japan Help Defend Taiwan?
https://www.cato.org/commentary/would-japan-help-defend-taiwan

 

[2] Council on Foreign Relations, November 23, 2021, Does Taiwan Have the Right of Self-Defense?
https://www.cfr.org/article/does-taiwan-have-right-self-defense

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