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2022.07.26

オランダ政府は、誰のための政府?

オランダ政府は、誰のための政府?

 

2022/07/26

松本裕子

 

ウクライナ、ロシア戦争により、小麦やエネルギー価格が上がり、世界中で物価が上がる中、オランダで政府が環境保護の法律を盾に、農家の土地を買い上げているというニュースが飛び込んできた。

 

オランダは、アメリカに次ぐ世界第2位の農産品の輸出国であり、ヨーロッパで最大の肉の輸出国。アメリカインデイアナ州の半分の国土にも関わらず、食品の輸出が年間1000億ドル以上の収益を上げるという偉業を成し遂げている。この成功は、オランダ農民の意識が高く、集約化、機械化により生産性を上げているからだと、専門家は語る。もちろん、利用可能な土地から収穫量を最大限にするため、肥料などの使用は世界平均の2倍、266kg/ha。他方で、集約的な畜産のためにヨーロッパ平均の4倍の窒素汚染を引き起こしていると言われている。

 

これを受けたオランダ最高裁の判決により、2019年5月、過剰な窒素負荷や温室効果ガスを削減することを目標に、家畜の数を半減する案が提出された。2021年5、6月には、窒素負荷削減を期限付きで義務付ける窒素法が施行された。農業それ自体が産業化し農地が自然を破壊するという議論も加速化している。

 

政府は2030年までに窒素汚染を50%削減することを要求しており、実現すれば、家畜の3分の1以上の削減を余儀なくされ農家の多くは破産となる。こういった不満と不安を併せて、政府の環境データに疑問を持った多くの農業従事者がトラクターで都市へ赴き、デモを続けている。デモが始まった頃の調査だが、回答者の7、8割がデモに賛同すると答え、都会の人々も支持していることがわかった。

 

オランダの農家は、政府の窒素汚染データを信用せず、接収した土地に移民のための住宅を建てるのではと、疑っている。この政策はオランダ政府がオランダ国民の安定的な食糧供給を奪おうとしているように筆者には見える。

 

日本がオランダから輸入している農産物は、豚肉、ナチュラルチーズ、ペットフード、球根などだ。オランダの農業政策が自らの生活に影響すると思っている日本人は少ないだろう。また、地理的にも日本は島国で母なる海に囲まれているので、海外の情報には関心が低くなってしまいがちである。はたして日本人の胃袋を満たすために貢献しているのは誰なのだろうか。戦争で食料価格が上昇している今こそ、また、食料自給率の低い日本に住んでいるからこそ、一人一人が食糧安全保障について関心を持ち、自国・世界の食料事情について積極的に情報を取りにいく必要がある。

 

海外から食糧をいつでも輸入できるとタカを括っていては、痛い目に遭いかねない。

 

参考文献
https://nypost.com/2022/07/12/good-for-dutch-farmers-for-fighting-back-against-a-govt-bowing-to-enviro-radicals/

 

https://data.worldbank.org/indicator/AG.CON.FERT.ZS

 

https://www.maff.go.jp › attach › pdf › index-190

 

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