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菅内閣発足!米中冷戦下問われる日本の立ち位置

2020/09/18 伊達 善信

 

 世界中がコロナ禍に見舞われる中、各国が自国民の安全と安心を守ることに注力していることは言うまでもないが、国民の安全と安心は命だけを守れば得られるのか、財産も守らねば達成し得ないのかは、各国の判断の分かれるところのようである。先日退陣した安倍政権も福祉と経済の均衡点を見出すことに苦慮していた様子であった。

そんなこともあってか、9月16日に我が国の第99代首相となった菅義偉氏率いる内閣の顔ぶれは、一見すると新鮮味のないもののように見えるかもしれない。確かに元大臣の再起用や、前大臣の留任、横滑りなどを受けて国内の大手メディアでは驚きの少ない無難な人事であると評価されている。

一方で、これを受けて新内閣の支持率は6割超とも言われているというのであるから、政策の内容の良し悪しはともかく、菅氏の政治手腕が改めて顕になったというところであろう。その勢いは就任記者会見における上川法相の「現在法務省は国民の皆様からの信頼が損なわれているようにあると言わざるを得ません」河野行革担当相の「前例主義、既得権、権威主義の最たるものだ。こんなものはさっさとやめたらいい」などという思い切った発言に如実に現れている。

好調な滑り出しの菅政権とて長期的な求心力維持のためには、経済の問題は避けて通れまい。その経済には外交や軍事が絡むもので、事実今日の世界経済に立ちはだかる大きな壁が米中冷戦である。アリババ傘下の英字中国紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは9月4日付けの記事で「米国の金融制裁による中国の資産の差し押さえの可能性がある」などとして「中国が米国債の保有を徐々に削減」すると報じた

中国関連の軋轢は経済だけではなく、軍事的な挑発も後を絶たない。台湾の三立ニュースネットは9月13日の記事で「9日正午に、多数のスホーイ-30(SU-30)と殲-10(J-10)戦闘機を送り込み台湾を混乱させ、傲慢にも私たちの国を挑発した。」と中国に対する危機感と怒りをあらわにした

中国がこのような挑発をすれば自由主義社会の盟主たる米国も黙っているはずはなく、台湾周辺地域における警戒を強化している。ウイグル、内モンゴル、チベットと周辺国を侵略しては住民を弾圧し、時には虐殺する中国の姿勢に対する不安は香港や台湾から飛び火して世界に認識が広まっており、チェコの上院議長が台湾を訪問し立法院で「私は台湾人だ」と演説するに至った。

これに反発したのが中国の王毅外相だった。あろうことか欧州訪問中に欧州連合加盟国のチェコに対し「大きな代償を払う」と脅し文句を吐いてしまったのだ。この件について、仏政府は「欧州連合加盟国に対する脅威とみなし、チェコと連帯する」と表明したが至極当然の結末と言えるだろう。

ここで問われるのが、この混沌とした国際情勢における日本の立ち位置である。自由主義社会の側につくのか、それとも社会主義的圧政に傾くのか。答えは明快であるように思えるが、世界は必ずしもその様には捉えてはいない。

確かに日本は米国の同盟国ではある。しかし近年の日本は社会保障費を増大させ、増税を重ねている。経済的観点だけから観ても、日本が社会主義化していることは明らかだ。それに加え、日本は刑事事件の被告人や子供の権利に関する分野で国際的ルールを逸脱した運用をして憚らない。年頭の森前法相の無罪証明発言を発端とし、日本に対する眼差しは厳しさを増している。今年2月にはフランス上院、7月には欧州連合と、立て続けに非難決議を受けている我が国は、いわばイエローカードの状態だ。

そんな日本にも優しく好意的な声を上げてくれるのが台湾である。前出の三立ニュースネットは16日の記事で岸信夫氏が防衛大臣に就任したことに触れ「8月9日に森前首相が率いる『李登輝前総統弔問団』の一員として台湾を訪問したことから、内閣に入る直前に彼の挙動は注目を浴びた。李登輝の追悼告別式に出席するかどうかも注目されている」と好意的に報じている

我が国の安全保障を脅かしている中国の汪文斌報道官が「日本が1つの中国の原則を遵守し、いかなる形の台湾との公式交流も回避することを望んでいる」と逆にヒントをくれていることに鑑み、菅新政権では台湾との公式交流が強化されることを願ってやまない。

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