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2023.05.09

朝鮮学校無償化問題〜ドイツの場外乱闘に見る潮目

朝鮮学校無償化問題〜ドイツの場外乱闘に見る潮目

令和5年5月8日
吉岡綾子

 
筆者の住むミュンヘン市でart5による自主映画上映会が行われた。art5と言えば慰安婦像をミュンヘンで展示したコリア評議会の別団体イベント部門だと筆者は認識している。映画のテーマは「差別」。朝鮮学校無償化却下問題に見る日本の朝鮮いじめについて、ということだ。筆者はこの上映会に足を運んだ。本文はそのレポートである。
以下にまずフライヤー(上記写真)の全文和訳を掲載する。

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コレア評議会 2023年4月25日

在日朝鮮学校映画上映「差別」(ベルリン、フランクフルト、ミュンヘン、ハンブルグ、アムステルダム)

コレア評議会は、ドイツのさまざまな都市(ベルリン、フランクフルト、ミュンヘン、ハンブルグ)とオランダ(アムステルダム)で上映される映画「日本における朝鮮学校に関する差別」の上映に皆様を心からご招待いたします。

映画の内容は?
植民地時代、日本に徴兵されたり、生き残るために日本に移住した朝鮮人は、いつか故郷に戻ることを夢見ていました。このため、彼らは言語を失わず、祖国とのつながりを維持するために、日本中に朝鮮学校を設立しました。しかし、第二次世界大戦の終結と日本の植民地主義の終焉後、日本での韓国人の喜びは短命であり、彼らの希望は打ち砕かれました。韓国と北朝鮮に分かれてしまったため、どちらの場所も選ばなかった多くの人々が日本に留まりました。この映画は、日本で生き残ったこの朝鮮学校についての物語です。

日本政府は2010年に公立高校の学費免除を導入しました。しかし、朝鮮高校10校はこの規則を免除されている。その理由として、総聯(在日朝鮮人連合)による補助金の流用の危険性が挙げられた。 2013 年、朝鮮学校の 5 つの高校が抗議し、国に対して訴訟を起こしました。 4 年間の裁判の後、2017 年 7 月 19 日に、広島の朝鮮高校に対する最初の訴訟が結審されました。差別は、2017 年の大阪の朝鮮高等学校に対する最初の裁判所の判決から、2019 年 4 月の九州の朝鮮高等学校による授業料免除の再訴訟までの 2 年間の朝鮮人少数派の闘いの物語です。 70年以上にわたり朝鮮学校を支援してきた在日朝鮮人や、韓国と日本の朝鮮学校を支援するさまざまな人々の物語。

ドイツの聴衆をよりよく理解するために、この学校の卒業生であるシム・ヒャンボクが、映画上映の前に学校についての簡単な講義を行います。映画上映後は、彼女とのQ&Aセッションを予定。

映画に関する情報:
「差別」2021、キム・ジウン&キム・ドヒによる90分
ドイツ語と韓国語の字幕付き
トレーラー : DISCRIMINATION TRAILER – YouTube

ベルリン   〜略〜

ミュンヘン
日時:2023年5月6日(土)14時~
場所: Werkstattkino, Fraunhoferstraße 9, 80469 Munich
プログラム:映画上映後のディスカッション
司会:Clara Farias Rocha (ダッハウ強制収容所記念館)
主催者:ミュンヘンのBOM、Art5 e.V.
入場料:5ユーロ(学生・シニアは無料)、寄付歓迎

フランクフルト 〜略〜
ハンブルク   〜略〜
アムステルダム 〜略〜

https://koreaverband.de/blog/2023/04/25/filmvorfuehrung-diskriminierung/

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市内中心部に近いカフェの並ぶ通りにひっそりとその建物はあり、地下に降りていくと昔のアングラ劇場のような薄暗い100席ほどの映画館があった。

観客はおそらく10人以下と思われる。上映時には15人ほどだったが、受付時の様子から半数近くがスタッフと思われた。受付の女性は日本語で筆者に話しかけたが、筆者はどうしてもここで日本語を喋る気になれずドイツ語で返答した。席に着くとスタッフの女性が我々観客をこっそり写真に収め始めたのでこちらはバッグで顔を隠して防御する。ドイツ人客は3人。男性2、女性1。いずれも高齢者。はっきり日本人と分かる観客は筆者を含め2名。

(開催の辞)

司会者
「皆さん、ようこそ。私は司会の◯◯です。
それでは上映に先立ってダッハウ強制収容所記念館のRochaさんよりご挨拶をお願いします。」

Rocha女史挨拶。自己紹介でダッハウ強制収容所記念館職員かつ「緑の党職員」と名乗る。

司会者
「映画のタイトルは『差別』ですが、これは日本人による朝鮮学校無償化を外された差別の物語で、、、」

ドイツ人男性
「ところでこの学校は北朝鮮の学校の話なんですか?」

司会者
「いいえ。ここで言うKoreaner (韓国人と朝鮮人は同一単語)とは南北以前の朝鮮から強制連行されてきた人々の学校を意味します。彼らは祖国に帰れず日本で生きることを選択したにも関わらず〜」

日本人女性
「いいえ、日本には二通りの教育施設があり一つはチョウセンソウレン、もう一つはミンダンがバックにあり、ここで言う朝鮮学校とは明らかにソウレンが背後、つまり北朝鮮によるものです。公立学校には既に在日朝鮮人を対象にした民族学級があるのです。」

その後一時騒然。各自が喋り出すので(司会者ではなく)別のドイツ人観客が

「とにかくどんなものなのか、映画を観ようじゃないか!映画を上映してくれ!」

そのようにして波乱含みの中、上映が開始される。

〜映画はまず故安倍晋三元首相のポートレートから始まった。
90分に及ぶ映画の中で安倍元首相は三度登場し、彼の政権下で日本は極右化し朝鮮差別が激化したというナレーションが印象的だった。朝鮮学校無償化裁判の様子がドキュメンタリーとして上映される。〜

(上映終了 討論会に移る)

司会者
「この映画では日本による朝鮮学校差別問題が語られる訳ですが、、、」

ドイツ人男性
「ちょっと待ってくれ。今、映画に出てきた朝鮮学校の様子はまるで北朝鮮のフィルムを見る様だった。北朝鮮はまるで我々の常識とは違う国じゃないか!毎日の様にミサイルを自分の国に発射する国の学校に援助しろと言っても!」

日本人女性
「全くもってこの方の言う通りです。日本の国民感情を言うならば、朝鮮から何百人という日本人拉致被害者たちが5人を除いてこの20年間、一人も帰っていない。この問題の解決を待たずして我々の血税を1円たりとも朝鮮学校に注ぎ入れることは国民感情が許さない!」
(ドイツ人たちが一様に深く頷く。)

司会者
「発言は私が指した方に限らせてもらいます。勝手に発言しないでください。朝鮮学校の生徒はその80%が韓国籍を持っています。
この朝鮮学校ヘイト問題は歴史を遡って考える必要があるのです。日本は半島を植民地支配し何万人にも上る強制連行を、、、」

日本人女性
「植民地ではありません!当時日本と同じ一つの国であったのが朝鮮半島なのです。彼らは私たちと同等であった。」

司会者
「勝手な発言しないでください。
ダッハウ強制収容所でのユダヤ人差別と朝鮮人差別の相似点についてどう思いますか?」

Rocha
「一概に比べることは難しいのですけど、、、」

ドイツ人女性
「あのー」(挙手)

司会者
「そちらの女性、どうぞ」

ドイツ人女性
「私はよくわからないのですが、この問題をナチスのユダヤ人迫害に喩えるのは間違っているのではないかと思うのです。
(そうだー!と野次)

私はドイツにおけるトルコ人問題を想起したのですが。ドイツでトルコ人たちは差別されたでしょう?(ドイツ人+日本人頷く)

差別はあって当然ですよね。けれどドイツ政府は粘り強くガストアルバイター達の同化政策を行った。トルコ人たちをドイツの社会に馴染ませようとしたのです。だってここはドイツなのですから。
同化や統合のためにはドイツ人と外国人の双方の歩み寄りや努力が必要なのです。問題はあっても一歩ずつ進む。
けれど、今観た映画の中で朝鮮人の人たちは日本を恨むばかりで日本に同化しようと歩み寄っているようには到底見えなかった。」

司会者
「これはですね、歴史を遡って理解する必要があるのです。植民地支配の歴史が日本では日本人が上で朝鮮人は下という、、、」

ドイツ女性
「だからそれはどこにでもある問題なのよ」

このあと韓国人と思われる女性が韓国語で大声で話し始める。何か罵っている様子。長い演説で韓国語を理解出来ない観客が飽きてきた頃、日本人女性が「時間だから」と席を立ち「ブルーリボンの会のミニしおりを配布し始める。後に退席。その様子を見て演説をしていた女性がドイツ語で「こいつだー!こいつがそうなんだー!」と大声で喚き始める。

騒然とする中、身の危険を感じ筆者も退場。
筆者は討論会中何度も挙手をして発言を求めたが一度も指してもらえなかった。発言をしていた日本人女性も当てられた訳では無く不規則発言を余儀なくされた形であった。

上映会会場を去りつつ、筆者の頭には「潮目(しおめ)が変わりつつある」という言葉が浮かんでいた。日本人による朝鮮人差別を訴えるはずであった映画上映会が、主催者の思惑を見事に裏切る結果にしかなっていないと感じた。

討論会中、発言のあったドイツ人たちの意見が極めて真っ当で的を射ているものであったことに感動を覚えていた。彼らは特別な先入観を持たずに素直に思ったままの気持ちをぶつけていた。
ドイツ人たちは必ずしも朝鮮半島の歴史を適切に理解しているわけではない。遠い国の出来事で学校でも歴史の時間にアジア史を学習する時間などない。あるとするならば主要メデイアによる偏ったプロパガンダだけだ。強制連行や南京大虐殺などの大日本帝国の残虐性のアピールを沢山聞いてきただろう。

しかしながら戦後70年の楔をいびつに引き継ぐ愚かさを彼らは理解している。そして何よりも現状が大切であると認識した上で、現在の北朝鮮に対する判断を行っているように見えた。彼らコレア評議会はダッハウ強制収容所の職員かつ緑の党を呼んできて日本の過去をナチスと結びつけるイメージ操作をしようという意図を見せた。しかし如何に自分達は北とは無関係の組織だと説明してもその胡散臭さをドイツ人たちは看破出来ていた。

潮流が変わる。いや、必ず変えよう。

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