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過激派テロへ新法案、フランスの葛藤2

2020/11/20      飛高祥吾

 

世界的に新型コロナウイルスの第二波、第三波を迎えているといわれる中、各国にはコロナ以前から存在していてかつ現在より先鋭化して現れている問題も存在する。フランスではイスラム過激派によるテロの続発が問題となっている。

 

マクロン大統領が対イスラム過激派テロの新法案を12月閣議にかけることを10月2日に言明したこと、その後10月16日にパリ郊外で男性教師が殺害される事件が発生したことは先月の記事で取り上げた通りである。この事件の犯人はツイッター上に被害者の頭部写真と共にマクロン大統領を「異教徒の指導者」と名指しする文面を投稿していた。

 

https://www.sanseito.jp/translation/771/

 

この事件は16日17時頃パリ近郊コンフラン=サントノリーヌで起こった。被害者は中学校の地理歴史科の教師であるサミュエル・パティ(Samuel Paty)で教材としてイスラム教預言者のムハンマドの風刺画を扱ったことにより報復として首を切られ殺害されたと考えられている。犯人はモスクワ出身のチェチェン系難民の18歳男性で事件後警官にたいしエアガンで発砲し既に射殺されている。17日の時点で9名の身柄が拘束されており、その中にはサミュエル・パティの生徒の父親や犯人の親族の他、過激なイスラム主義者、活動家であるアブデルハキム・セフリウイ(Abdelhakim Sefrioui)も含まれている。

 

https://www.lemonde.fr/societe/article/2020/10/16/un-homme-decapite-dans-les-yvelines-le-parquet-antiterroriste-saisi-de-l-enquete_6056350_3224.html

 

 

https://www.bladi.net/abdelhakim-sefrioui-islam-radical,75095.html

 

 

10月29日にはニースのノートルダム寺院でナイフによるテロ攻撃があり2名の女性と1名の男性が殺害された。この寺院はカトリックの象徴的な建物であると共にニースのフランス併合を記念する建物でもある。

 

https://www.lefigaro.fr/actualite-france/attentat-de-nice-notre-dame-de-l-assomption-edifice-religieux-et-symbole-de-la-francisation-de-la-ville-20201029

 

 

 

イスラム過激派に対する新法案による波紋はフランス国外にも広がっている。10月2日の言明以来トルコ政府は一貫して反発を表明してきた。10月27日にはエルドアン大統領がアンカラにてフランス製品の不買運動をスピーチした。また欧州での現在のイスラム教徒の扱いを第2次世界大戦前のユダヤ人への扱いと同様のものとしイスラム教徒に集団暴力が加えられているとスピーチした。

 

https://www.lefigaro.fr/international/erdogan-appelle-au-boycott-des-produits-francais-20201026

 

 

このように事態が推移する中、10月26日にマクロン大統領はアラビア語でツイッターに投稿した。

(以下機械翻訳)

「何も私たちを妨げるものはありません。私たちは平和の精神のすべての違いを尊重します。私たちは憎しみの言葉を決して受け入れず、合理的な議論を擁護します。私たちは常に人間の尊厳と普遍的な価値観を支持します。」

一方でカステックス首相は11月2日テレビ局TF1にて、10月29日ニースでのテロに触れつつ過激なイスラム主義に対する長年に渡る妥協を告発している。

 

https://twitter.com/EmmanuelMacron/status/1320420864526065665

 

https://www.lefigaro.fr/flash-actu/jean-castex-denonce-les-compromissions-avec-l-islamisme-radical-20201101

 

 

レジオン・ドヌール勲章の授章者でもあるモロッコのムスリムである社会学者のスマヤ・ナアマネ・ゲス(Soumaya Naamane Guessous)は10月30日にマクロン大統領に宛てる形で記事を書いている。その中でゲスは、彼女がフランス文化の中で教えられ、愛するフランスのライシテが他人の自尊心や感受性を傷つけるものではないことを明言する。ドゴールの神聖さを侮辱してはならないのと同様にいかなる預言者の神聖さも侮辱してはならない。罪のない人々を虐殺するテロへと至る狂信を否定すると同時に、人々の信念に対する冒涜的行為の根底にも別の形ではあるが同等の狂信を見いだし非難する。彼女がフランス大統領に求めるのはフランスの自由の再定義であり、受容と調和、普遍的な平和、よりよい世界を共に築くことである。

 

https://m.le360.ma/blog/etre-serieuse-sans-se-prendre-au-serieux/monsieur-macron-sil-vous-plait-ecoutez-moi-ecoutez-nous-226210

 

 

12月に閣議にかけられる法案がどのようなものとなるにせよフランス政府が難しい立場におかれていることは確かである。原因の成り行きがどうであっても、テロ自体に妥協したメッセージを発することはできない。しかし、もし杓子定規に1パターンの強硬なメッセージを発し続けるだけであってもテロの誘発をとめることはできない。フランスの自由とライシテについての精神性の復活が必要とされているのではないか。

では私たちはこのフランスの状況を前に日本人として何ができるだろうか。私たちは、習合と受容、異物を平然と並列しそのまま保つ日本文化、日本精神の調和の中にこのフランスに対する助力を見出だすことができるのではないか。しかし私たちは確かに日本文化とその精神の中に生活している。しかし現状どの程度それを理解しているのだろうか。課題は深い。

過激派テロへ新法案、フランスの葛藤2

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サミュエル・パティへの追悼

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