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2023.10.24

ロバート・ケネディ・ジュニア氏と著書『アンソニー・ファウチの真実』

ロバート・ケネディ・ジュニア氏と著書『アンソニー・ファウチの真実』写真: “The Real Anthony Fauci“の電子版表紙

令和 5 年 10 月 22 日
藤野 はるか

 

 アメリカ大統領選挙をおよそ 1 年後に控え、民主党、共和党での候補者争いが始まっているが、大手メディアを信用しない人たちの間で頻繁に話題になっているのが、ロバート・ケネディ・ジュニア氏である。1963 年に暗殺されたジョン・F・ケネディ大統領の甥であり、その 4 年後に同じく暗殺された弟、ロバート・ケネディ司法長官の息子(本業は 弁護士)である。ケネディ家は代々民主党員で、報道によると、ケネディ・ジュニア氏は今年 4 月に民主党候補として来年の大統領選挙に出馬するための書類を提出した。しかし新型コロナワクチンやウクライナ戦争への痛烈な批判は現在の民主党の立ち位置とは相容れないもので、民主党の彼に対する扱いは非常に悪く、彼は民主党からの立候補を断念し、10 月に無所属での大統領選立候補を表明した。

 

 ケネディ・ジュニア氏が 2021 年に出版した『アンソニー・ファウチの真実(原題:The Real Anthony Fauci)』は筆者が調べた限り、アメリカではベストセラーになっているようだ。おもに日本の近現代史研究を行っている著名な日本人作家が日本語訳を出版しようと 尽力されたそうだが、日本の出版社で協力的なところが見つからず、お蔵入りになったという噂を聞いた筆者は、アマゾンの電子書籍でこの本を購入してみた。

 

 参考文献情報やグラフなどが多く含まれているため、実質はもっと少ないと思われるが、電子書籍で 1062 ページある本書の「まえがき(原語: Introduction)」18 ページ分を 熟読しただけでも、日本人がぜひとも知っておくべき内容が書かれていたので、この場を借りて紹介したい。

 

 1 ページ目から 4 ページにわたって、他序のページがある。リュック・モンタニエ博士(HIV ウイルスの発見によりノーベル賞を受賞、2022 年死去)、タッカー・カールソン氏(元 FOX テレビキャスター)、オリバー・ストーン氏(映画監督)を始め、15 名の医療専門家、作家、ジャーナリストなどの著名人がコメントを寄せている。

 

・・・

 
 「最初にすべきは、現代の医療研究の一番の目的はアメリカ人の健康をもっとも効率よく効果的に改善することである、という幻想を捨てることだ。我々が思うに、商業的な資金が入っている臨床研究の一番の目的は、健康ではなく、投資効率を最大化することなのだ。」
― ジョン・アブラムソン、医学博士、ハーバード大学医学大学院

(電子書籍版:23 ページ)
 

 これがケネディ・ジュニア氏自身の言葉が始まる直前に書かれていることだった。確かに日本の出版社はこんなことが書かれている本を出版したくないだろう。しかしこの 3 年間のコロナ禍での日本政府、医師会、製薬会社の動きをしっかり見た上で、これに反論することができる人がいるのなら、その方にぜひ会ってみたいと思う。

 

 まえがきの前半では、ケネディ・ジュニア氏が環境問題に取り組む弁護士だったころのエピソードが書かれている。キーワードは「規制の虜」(英 : regulatory capture)である。連邦環境保護庁(EPA)のような、本来であれば業界を規制するべき行政機関が、規制される側の業界(具体的には大手石油会社、炭鉱会社、農薬メーカーなど)からの工作を受けて、業界に支配される腐敗したメカニズムを意味している。環境問題に取り組む弁護士だったころの著者が扱った訴訟の相手方のうち、約 4 分の 1 が環境破壊行為を行っている企業ではなく、彼らに取り込まれて、違法に便宜を図っていた規制機関の取締官であったことが明かされている。

 

 しかし著者は、2005 年に製薬業界における「規制の虜」は、環境問題関連業界の比ではないことを知って「驚愕した」という。きっかけはワクチンだった。

 

 CDC(アメリカ疾病管理予防センター、Centers for Disease Control and Prevention)が 57 のワクチンの特許を持ち、NIH(国立衛生研究所、National Institute of Health)も何百ものワクチンの特許を持ち、ワクチンの販売で利益を得ていることが挙げられている。ファウチ氏を始め、これらの機関の高官たちは、自分たちが規制すべきワクチンの開発や承認を手伝うことで、毎年 15 万ドルともいわれる報酬を受け取っていることも明かされている。FDA(米国食品医薬品局、U.S. Food and Drug Administration)も例外ではなく、その予算の 45%を製薬業界から得ていることが書かれている。

 

 これらの事実を知ったときのケネディ‧ジュニア氏の感想は「アメリカ人の壊滅的な健康状態はもはや謎ではなくなった」。まったくである。

 

 次にケネディ・ジュニア氏が指摘しているのは、ファウチ氏のコロナ禍マネジメントの失敗の数々である。まず死者数として、「アメリカの人口は世界の 4%なのに、世界中でのコロナ死者数にアメリカ人が占める比率は 14.5%だった。2021 年の 9 月 30 日までに、アメリカの 100 万人当たり死者数は、日本では 139 人だったのに対して、2,107 人だったのだ」(電子書籍版:29 ページ)とある。

 

 続けてケネディ・ジュニア氏は、ファウチ氏が行っていた隔離政策を非難している。2021 年 6 月 24 日の BMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)誌による、隔離期間中に アメリカ人の平均寿命は 1.9 歳下がったという報告を挙げ、「コロナによる死亡者はほとん どが高齢者で、イギリスではコロナ死亡者の平均年齢は、平均寿命を超える 82.4 歳である。 よってウイルスだけではこの驚くべき平均寿命の低下は説明できない」(電子書籍版:31 ページ)として、健康な人に対する前代未聞の隔離措置が、経済破壊、孤独、失業、治療の遅れ、精神病、薬物・アルコール依存、自殺などの原因となり、コロナそのものよりも多くの 人を死に追いやったことを指摘している。さらに専門家の「我々がこのような衝撃的な数字 を見たのは第二次世界大戦以来である」というコメントを引用している。

 

 筆者がこのケネディ・ジュニア氏の指摘を読んで気になったのは、我が国の平均寿命だ。 我が国では、アメリカほどの隔離政策が行われなかった 2020 年には 8,000 人程度前年に比べて減った死者数が 2021 年には 67,000 人程度増え、2022 年にはさらに 129,000 人程度増えたが、それに対する検証がまったくなされていない。この死者数激増の原因について、本稿読者の皆様は疑念なく一つの可能性を思いつくことであろう。この深刻さを確認するために、筆者は我が国の平均寿命を確認した。
life22-15.pdf (mhlw.go.jp) (2020 年から 2022 年)
平均寿命と健康寿命 | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp) (2019 年)

 

 これらによると、コロナ元年の 2020 年に我が国の平均寿命は男女とも過去最高を記録したあと、2022 年までの 2 年で男性 0.51 年、女性 0.62 年短くなっている。厚生労働省もメディアもこの原因をコロナで片づけようとしているが、上記にもあるように「コロナで死亡する人の平均年齢は平均寿命よりも上」であることを考えると、そのような理由が通らないことは小学生ですら理解できるに違いない。アメリカでは平均寿命が下がった 2020 年に日本ではむしろ上がっていたのは、日本がアメリカのような極端なロックダウン政策を取らなかったからだと思われる。もっとも「緊急事態条項」が盛り込まれた自民党の憲法改正案通りに我が国の憲法が改正されると、日本でもアメリカ並みのロックダウンが行われる可能性がある。

 

 まえがきの後半では、ファウチ氏が公衆衛生行政の権力者になった(=1984 年)あとの アメリカのワクチン事情が克明に記されている。アメリカでは 18 歳までに、69 ものワクチン接種が奨励される。これをケネディ・ジュニア氏は、「私たちの子供たちは、18 歳までに推奨される 69 ものワクチンの針刺しとして差し出された」と表現している。さらに、1980 年代後半から、ADD や ADHD のような発達障害、食物アレルギー、ぜんそくなど、突然子供たちの「よくある病気」となった 170 もの病気が、それら 69 のワクチンの副作用として、製造業者から提示されているという。新型コロナワクチンについては、裁判に負けたフ ァイザー社がしぶしぶ公開した資料に、1291 もの副作用が載っていたが、それと同じことが 1980 年代から起きていたことを我々は重く見るべきである。

 

 今回紹介したことは、筆者が日本人として、日本人、日本政府に特に知って欲しいと思ったことに限定されているが、これら以外には、誤った公衆衛生政策は民主主義を一瞬で破壊すること、この数年間で多くの一般人を踏み台にして一部の金持ちがさらに金持ちになり、政府は我々の自由と人権をはく奪するために跋扈していたことなどが論理的に書かれている。

 

 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということわざがある。日本では今年、コロナが 5 類になったことで、このことわざの通り、何事もなかったかのように過ごしている人が大多数だが、ケネディ・ジュニア氏のようにこの 3 年間は何だったのか、きちんと検証することが必要である。

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