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2023.11.22

日本の国家安全保障戦略

日本の国家安全保障戦略

2023/11/11 山下 政治

 

岸田政権が昨年12月、国家安全保障戦略など新たな安保関連を閣議決定した。厳しさを増す安全保障環境の下で、米国に頼るだけではなく自立した防衛体制の構築を目指すため、防衛力の抜本的強化と、それを補完する取り組みのための経費を合わせ国内総生産(GDP)比で2%にする方針を明記した。防衛費は2023~27年度の5年間の総額で前回計画の1.6倍に相当する43兆円に増やすとした 。
この発表に反応したのが1955年に創立された米シンクタンクのFPRI (Foreign Policy Research Institute/外交政策研究所) だ。今年1月の『Japan’s New National Security Strategy is Making Wave=日本の新しい国家安全保障戦略が波紋を広げている』と題したレポートの冒頭では;
「日本の安全保障政策に革命が起きようとしている。新しい国家安全保障戦略 (NSS)が発表され、日本は『平和主義を放棄』し、『第二次世界大戦後最大 の軍備増強』に乗り出す。」
と記されている。やけに大袈裟な言い方だが日本を取り巻く環境下では遅すぎるくらいではないか、と筆者は感じている。
なんと言っても支那、北朝鮮、ロシアの三方面に敵対しているし、この3カ国とも核武装している。
さらに本レポートでは;
「『日本は第二次世界大戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境の中にいる。』NSSは明確に、中国を日本が直面する“最大の戦略的課題”と呼び、北朝鮮を“日本の国家安全保障にとってこれまで以上に重大かつ差し迫った脅威”とし、ロシアのウクライナ侵攻において日本は強く反ロシアを繰り返し表明している。実際、中国、北朝鮮、ロシアに近接し、これら3カ国の政府から脅威あるいは敵対国として認識されている日本ほど、厳しい戦略的環境に直面している国はない。」とこのように分析している。
 
日本国内において安全保障に対する意見は多岐に渡る。自衛隊の役割を強化し、憲法改正によって日本の防衛体制を強化すべきだとするもの。その一方で憲法の平和主義を維持し、積極的な安全保障政策や軍備拡張には反対する意見。また、日本は軍事的な行動に慎重な姿勢を取るべきというニュートラルな意見もある。今や世界は複雑にリンクしており日本一国の問題ではなく、アジア太平洋地域との連携を強化し、多国間協力や国際社会での役割をはたすべく安全保障の強化に寄与することが大切である、という意見もある。様々な意見のあるなかでの新たな国家安全保障戦略の発表だ。
 
さて、ここで具体的な防衛ビジョンについて確認しておこう。防衛ビジョンは、国家安全保障戦略の他、「防衛戦略(旧防衛計画の方針)と防衛力整備計画(旧中期防衛計画)の3つの戦略文書に示されている」5年間で投資する内容だが「サイバー戦争に70億ドル、宇宙に70億ドル、そして『テンペスト』として知られるイギリスとイタリアとの第6世代戦闘機開発計画に60億ドルである。」
上記に示した3つの戦略文書の中で最も注目に値するのはカウンターストライク能力のための投資だ。1500〜3000kmはなれた艦船やミサイル基地の攻撃能力を保有することになる。「これは『レフト・オブ・ランチ』(ミサイルが発射される前に敵のミサイルを攻撃すること)の合法性に関する疑問が、日本の抑止力にギャップを生み出していることを正しく指摘している。最新の文書は、反撃能力の法的根拠を説明し、日本がそのような能力を使用する法的権限を持つ条件を明確にし、そのような攻撃を可能にするために現在のミサイル備蓄をアップグレードすることによって、それらのギャップを埋めるものである。」要するに憲法を改正せずに合法的な攻撃が可能になるというわけだ。そして支那、北朝鮮、ロシアなどの大陸奥深くにある軍事施設を目標にした攻撃能力を日本に与えることになる。
そして、これらの文書が包括的な国力(CNP)という新しい用語の重要性を強調している。「マサチューセッツ工科大学のリチャード・サミュエルズ教授は、包括的国力とは外交、軍事力、経済力、テクノロジー、インテリジェンスを組み合わせたものを指すと指摘している。」
 
この日本の新しい国家安全保障戦略を最も熱狂的に支持したのはアメリカだった。
ジェイク・サリバン国家安全保障顧問:「今日、日本は自由で開かれたインド太平洋を強化し、守るために大胆且つ歴史的な一歩を踏み出した。」
アンソニー・ブリンケン国務長官:「歓迎する」
SDプラダン元国家安全保障副顧問:「中国の好戦性に悩む他の国々のモデル」
レポートの最後は;
「一部の憂慮に満ちた報道とは裏腹に、日本が平和主義から脱却したり、防衛的安全保障態勢を否定したりしている兆候はない。これに反する主張は、どの文書にも明確には記されていないにも関わらず、戦う動機を不正確に決めつけ、中国や北朝鮮が推進するプロパガンダのシナリオを不用意に強化する可能性がある。〜中略〜むしろ、日本は国境辺境全体で、3つの強大な軍事力に対する安全保障上の課題に直面していると理解するのが最も適切である。したがって、東京は、効果的な自衛のためには、今後数年間、より高い技術的・戦術的不屈の精神が必要であるという説得力のある主張をしているのである。」
 
というように概ね今回の日本の国家安全保障戦略は好意的な論調だ。しかし筆者は、これは罠ではないかとも懸念する。
岸田政権がこのような国家安全保障戦略を本気で打ち出す気概があるとは考えられない。LGBT理解増進法にしたってバイデン政権からの圧力により可決した。
このような大きな予算をつけて米国製防衛装備品を購入させられたと考えるのがむしろ自然ではないだろうか。しかも旧世代の在庫一掃処分としてだ。日本を取り巻く環境は日に日に危機状態に陥っていることは否めないから、それを理由に国民の理解を得ることができる。
そして何より国際連合では敵国条項を理由に日本が軍備をすれば戦争の準備をしている、と主張しそれを口実に国連常任理事国の支那は日本に対して合法的に戦争を仕掛けることができる。これに対して日本は国連に加入している以上何も言えない。日中戦争勃発となるのではないか、という懸念だ。
ロシアーウクライナ、イスラエルーハマスに続き日本—支那の戦争。日本と支那の戦争になったらグローバリストは儲かってしょうがないのではないだろうか?
 
それでも筆者はこれが正しい道のりだと考える。この罠に嵌まり防衛装備を強化し米国の後ろ盾がなくなっても日本が自立できるチャンスを逃してはならないと考えるからだ。戦後レジュームからの脱却がやっとできる日が来るのであれば、むしろこの罠に嵌ろうじゃないか。
 
そして国家安全保障戦略により膨大な予算をつけるからには、米国製装備を購入するのではなく自国による防衛装備の研究・開発・製造に予算を費やしてもらいたい。ここが筆者のこだわりだ。そして装備品は支那を取り巻くアジア諸国へ配備し、 満洲、モンゴル、ウイグル、チベットへも配備し支那を包囲することを計画したい。壮大な計画だがここまで強固にしてこその安全保障だ。
アジアの名士として、そしてグローバリストを駆逐する尖兵となるのが日本の役目なのだから。

 
参考文献
(i) Foreign Policy Research Institute Jan 2023
https://www.fpri.org/article/2023/01/japans-new-national-security-strategy-is-making-waves/
 
画像
https://www.mod.go.jp/msdf/sf/gallery/img/ship/011.jpg

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