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コロナにデジタル化で立ち向かうインドのボランティア組織

2021/05/30 小林充明

前回の記事[1]で、インドにおける医療崩壊への取り組みに対する遠隔医療の話に少しだけ触れたが、今回はInvest India (インベスト・インディア)というインド政府の投資促進機関のサイトの中にある5月20日2021年付のKanika Verma氏のブログ[2]、から、StepOneという組織の活動を紹介しながら、Digital India (デジタル・インディア)との関連を垣間見ることとする。

 

まず初めに、インド政府が重点政策としているものにInvest IndiaとDigital Indiaがある。前者のInvest Indiaについて公式サイト[3]から引用すると、同組織は「インド政府の商工業省、産業政策推進局の下で非営利事業として設立された同国への投資促進および円滑化の国家機関であり、投資家の最初の窓口としての役割を担っている。また投資家のビジネス環境を簡素化することで、インドの投資環境を変革している。Invest Indiaの専門家は、様々な国や州、部局に精通しており、投資の事前および事後のケアまで、投資家の投資ライフサイクルをサポートし、市場参入戦略、深遠なる産業分析、パートナー探しや立地評価、意思決定者への政策提言など、様々な形でサポートしている。」我が国でいえば日本貿易振興機構(JETRO) [4]のような機能を持つ組織である。JETROと同じように投資対象は多分野に渡り、ヘルスケアの分野にも積極的な投資の誘致を働き掛けている。

 

そしてインド政府は、情報技術を活用して公共サービスのエコ・システム全体を変革するために、「Digital India」[5]プログラムを立ち上げ、インドをデジタルで強化された社会と知識経済に変革することを目指している。平成28年度の我が国の『情報通信白書』[6]でその概要と方向性がまとめられているが、「同計画の下で、市民の政治参加プラットフォーム『MyGov.in』[7]、電子文書管理システム『デジタル・ロッカー・システム』[8]、『国家奨学金ポータル』、電子窓口システム『eSamparkデータベース』[9]、国民ID番号(Aadhaar)[10]を利用した年金受給者向け証明システム『Jeevan Pramaan』[11]や『生体認証勤怠管理システム(BAS)』[12]等」といった同国のデジタル社会における基幹的なサービス・システムが導入され、モディ首相の下で新たな社会への移行に邁進し始めた。また日本総研[13]からも、次のようなレポートが出されている。すなわちJAMというDigital Indiaの以下のような三位一体の改革が行われたことによって、「低所得者にも銀行口座を開設してもらい(Jan Dhan Yojana)[14]、それを国民ID(Aadhaar)と紐づけし、モバイル端末(Mobile)でアクセスできるようになった。それは社会保障給付金・補助金を受給者に直接給付することを目的とする。」。この改革のおかげで、新型コロナ対策として低所得の女性2億人に現金を給付する際、迅速に実施することができたようである。

 

インドでCovid-19に対抗するためにスタートアップ企業の創業者たちが手を結ぶ

 

さてStepOne[15]は2020年6月にさまざまな分野のボランティアが集まってできた、非営利のプラットフォームである。COVID-19パンデミックの発生により病院へのアクセスが困難になり、遠隔地での医療の必要性が高まり、ウイルスの蔓延を食い止めると同時に身体的・心理的なケアを必要とする人々を支援することが急務となった。このギャップを埋めるために医療、技術、マーケティング、オペレーションなど幅広い分野の有志が集まったのである。

 

執筆者は同組織のホームページから引用して「『Founders vs COVID』というWhatsApp(LINEのようなコミュニケーション・アプリ)グループとして始まったこのプロジェクトは、ベンガルールを拠点として2020年3月に数人の起業家が集まって現状を話し合ったことから出発し、すぐに250人のボランティアがさまざまな責任を担うようになった。」と述べ、その後「『Startup vs COVID』の傘下に集まるクリエイティブなボランティア、医師、およびテクノロジー系のスタートアップ企業の集合体となり、医療提供インフラを増強するために力を合わせている。このプラットフォームは、テクノロジーと人材を融合させ、最も必要としている人々に医療アクセスを提供することを使命としており、また、医療従事者の過剰な負担を防ぐことも目的としている」と説明している。

 

StepOneは、デリーで7,000人の医療ボランティアと1,000人の非医療ボランティアを含む8,000人のボランティアから活動をスタートし、現在では33カ国語を話す7,000人以上の医師と1,000人以上のボランティアが参加している。また、2020年12月現在は16の州で活動しており、1日に3万件以上の電話を管理している。さらに、StepOneはArogya Setu Mitr(Arogya Setuアプリで無料の遠隔相談サービスを提供する)の遠隔相談のパートナーとしても登録されている。このプラットフォームでは、以下のような重要なサービスが提供されている。

・COVID-19感染前の検査

・COVID-19陽性者のトリアージ(優先順位づけ)

・家庭内隔離の監視

・メンタルヘルスに関するカウンセリング

・血漿提供者の管理

・検疫管理

StepOneでは、#WeSpreadFaster(#より早く広げる)を合言葉に「CSRseva」というボランティア・プログラムに参加する企業を募集し、資金的な支援だけでなく人材の支援も求めている。その活動コンセプトは、CSR(=企業の社会的責任)である[16]という。

 

Digital Indiaは世界各国で推進されているデジタル・フォーメーション(DX)政策―デジタル化による社会の変革―であるが、その背景にあるのは、インドが古いインドから新しいインドに変わろうとしていることである。すなわちカースト意識が強く、多人口で経済効率や教育水準の低いオールドエコノミー(農業、手工業、飲食業、および小売業など)から少人口でカースト意識の低い、英語が標準語の教育水準の高いニューエコノミー(IT、通信、エンジニアリングなど)の産業に国全体がシフトしていこうとしている[17]のである。

 

このStepOneの活動は、上に挙げたJAMというインドの行政改革なしには出てこなかったサービスであろう。コロナ禍で今までのような集権的な密度を重視する経済が発揮できない現状では、複数のデジタルのアプリやシステムの力をフル活用して遠隔医療だけでなく、給付金や補助金の支給をもおこなっているインドのDigital Indiaの姿勢を我が国でも取り入れるべきである。

(了)

 

 

[1] https://www.sanseito.jp/translation/1655/

[2] https://www.investindia.gov.in/team-india-blogs/startup-founders-join-hands-fight-covid-19-india

[3] https://www.cgihk.gov.in/page/invest-india/

[4] https://www.jetro.go.jp/

[5] https://www.digitalindia.gov.in/

[6] https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc26b510.html

[7] https://www.mygov.in/

[8] https://digilocker.gov.in/

[9] https://sampark.gov.in/Sampark/

[10] https://uidai.gov.in/

[11] https://jeevanpramaan.gov.in/

[12] Biometric Attendance Systemのことであり、以下を参照。

  http://nicwb.nic.in/wp-content/uploads/2019/03/AEBAS_manual.pdf

[13] https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=37315

[14] https://pmjdy.gov.in/

[15] https://projectstepone.org/

[16] https://yourstory.com/socialstory/2020/12/project-stepone-volunteers-saving-lives-covid/amp

[17]サンジーヴ・スィンハ、『すごいインド―なぜグローバル人材が輩出するのか―』、Kindle版、新潮新書、2014年よりNo,395の図を参照。

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